TRIPS協定は地理的表示を最初に定義した国際条約

最終更新日 2023-06-23

地理的表示は国際的にはどのように保護されているのでしょうか?地理的表示がその機能を果たせるようにするためには、虚偽の産地表示やフリーライド(名声・評判へのタダ乗り)などの不正な使用を法的に規制する仕組みが必要です。日本で地理的表示保護制度が作られるきっかけとなった国際条約、TRIPS協定について解説します。

TRIPS協定とは

TRIPS協定とは、世界貿易機関(WTO)を設立するマラケシュ協定の附属書1Cとして発効した「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)のことです。1994年に調印、1995年に発効しました。全てのWTO加盟国に適用されるもので、現在では160か国以上が加盟しています。

TRIPS協定は、先端技術や創造性、ブランディングによって強化された付加価値の高い製品が世界中で取引されるようになった現代にあって、知的財産権と貿易との関係を重視した国際条約です。

TRIPS協定の大きな特徴は、全ての加盟国に対して、知的財産権の十分な保護と権利行使手続の整備について最低限の基準を定めて義務付けていることです。保護すべき知的財産権の一つに「地理的表示」が明記され、定義されています。

地理的表示の定義

この協定の適用上、「地理的表示」とは、ある商品に関し、その確立した品質、社会的評価その他の特性が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において、当該商品が加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするものであることを特定する表示をいう。

TRIPS協定第22条第1項

英語ではこうなります。

Geographical indications are, for the purposes of this Agreement, indications which identify a good as originating in the territory of a Member, or a region or locality in that territory, where a given quality, reputation or other characteristic of the good is essentially attributable to its geographical origin.

Article 22.1 of the TRIPS Agreement

まず、「地理的表示」とは、 商品(good)がWTO加盟国の領域又はその領域内の地域を原産地とするものであることを特定する表示(indications)です。where以下の副詞節によって2つの条件が追加されています。その商品には、評価が確立された(given≒acknowledged)品質や評判などの特性が既に備わっていること、そして、その特性がその産地に主として起因するものであること、です。

一言でいうと、地理的表示は、ある商品について、原産地が一定の範囲に特定されていて、かつ、その原産地に由来する品質や社会的評価などの特性を備えた商品であること、を表す目印です。

地理的表示の保護の枠組み

TRIPS協定においては、地理的表示に関して、2段階の保護の枠組みが用意されています。全産品を対象とする通常レベルの一般的保護と、ぶどう酒と蒸留酒のみを対象とするより手厚い追加的保護です。

1.通常レベルの一般的保護とは

TRIPS協定では、商品の原産地について公衆を誤認させるような方法で、真の原産地以外の地域を原産地とするものであることを示すことを防止するための法的手段を確保することが義務付けられています。

例えば、「ゴルゴンゾーラ」はイタリアの特定の地域を産地とするチーズの欧州連合(EU)における地理的表示です。EUとの経済連携協定(EPA)が発効したことにより、日本とEU相互に地理的表示を保護することが合意されました。相互に保護する地理的表示のリストに含まれた「ゴルゴンゾーラ」は、日本の地理的表示法に基づき、農林水産大臣により地理的表示として指定されました。その結果、例えば愛知県産のチーズを「ゴルゴンゾーラ」と表示する行為は、日本の地理的表示法の下で禁止されることになりました。この場合、「愛知県産ゴルゴンゾーラ」と表示する行為は、真正な原産地(愛知県)を表示しているため、表示が許容されると解されています。

2.より手厚い追加的保護とは

特にぶどう酒と蒸留酒については、「ゴルゴンゾーラ」のような一般の商品よりも更に手厚い保護(追加的保護)が要求されています。たとえ地理的表示に真の原産地が示されている場合であっても、翻訳されて使用されている場合であっても、また「~タイプの」「~スタイルの」「~風の」「~のイミテーション」などの語を伴って使用される場合であっても、地理的表示によって示されている場所を原産地としないぶどう又は蒸留酒に使用されることを防止するための法的手段を確保することが義務付けられています。

例えば、愛知県産のワインについて、真の産地が愛知県であることを示しているとしても、「ボルドー」はフランスの一地方を産地とするワインの地理的表示であることから、「愛知県産ボルドーワイン」という表示を使用することは禁じられます。「愛知県産ゴルゴンゾーラ」の場合とは違い、原産地の誤認を招かない場合でも地理的表示の使用が認められないことから、より手厚い「追加的保護」と呼ばれています。