最終更新日 2023-06-23
テレビ番組中、地域特産物の宣伝文句で「地域団体商標の登録を受けています!」というフレーズを聞いたことはないでしょうか?スーパーの野菜売り場で「地域団体商標」のマークや商標登録番号が印刷されたプラスチック包装や段ボール箱を目にしたことは?何か小難しそうな言葉だけに、地域団体商標がつくと何かよさそうな気がするけれど実際のところよくわからない、普通の登録商標と何がちがうの、考え始めると疑問がたくさん浮かんでくると思います。そこで今回は、地域団体商標とは何か、普通の商標との違い、同じく地域ブランドに使われるGI(地理的表示)との違いについて解説します。
1.地域団体商標とは
地域団体商標は、形式的には、「地域の名称」と「商品の普通名称」を組み合わせた文字の商標を指すのですが、実体的には、その商品と地域との間には地域の特産品といったような密接な関係があることと、商標を所有する地域の団体が使用した結果、周辺地域にまで広く知られていることが特許庁の審査で認められたものだけを、地域団体商標といいます。
少なくとも次の(a)から(d)の4つの要件を満たす必要があり、それぞれ説明します。
- (a) 商標の構成・・・「地域の名称+商品(サービス)の普通名称(慣用名称)」という組み合わせの文字列の商標です。例えば、特許庁のウェブサイトで確認できる愛知県の地域団体商標の登録例には、「蒲郡みかん」、「一色産うなぎ」、「一宮モーニング」、「豊橋カレーうどん」、「西尾の抹茶」、「瀬戸焼」などがあります。ロゴマークなどの図形要素は含めることはできません。
- (b) 名義人・・・その地域に根ざした農協、漁協その他の事業協同組合、商工会議所などの一定の団体のみが出願人となることができます。地域団体商標は団体商標の一類型であり、団体又は団体の構成員が使用することができる商標です。
- (c) 地域との関連性・・・地域の名称と商品(サービス)の間に、商品の生産地であるなどの、密接な関連性が必要。地域に縁もゆかりもない商品(サービス)である場合は、登録は認められません。
- (d) 周知性・・・出願人である団体又はその構成員によって商標が使用された結果、その団体の業務に係る商品又はサービスの出所表示であるとして需要者の間に一定程度知られているものであることが必要です。
厳格な審査を経て登録されたら、地域団体商標と共に、次のような地域団体商標マークをつけて消費者にアピールできます。
2.通常の商標との違い
通常の商標との一番大きな違いは、商標の構成にあります。通常の商標では、基本的には「地域の名称+商品の普通名称」という文字の組み合わせでは商標登録できません。しかし、地域団体商標では、そのような文字の組み合わせで商標登録することができます。
「蒲郡みかん」「一宮モーニング」「豊橋カレーうどん」などのような文字の組み合わせの商標を登録しようとすると、通常の商標では登録は非常に困難ですが、地域団体商標としてなら、商標登録できる可能性があります。どうしてそうなるのかというと、商標登録の要件の一つである「識別力」が関係してきます。
商標登録とは、自己の業務に係る商品(サービス)と他人の業務に係る商品(サービス)とを識別するための目印(商標)を特許庁に登録することです。登録することで、商標の所有者に登録商標を独占的に使用する権利が与えられます。そのような強い権利が与えられるためには、商標には、商品やサービスの出所(source)を特定できることが最低限必要となります。
「地域の名称+商品の普通名称」という文字商標の場合には、産地はわかるとしても、誰の業務に係る商品であるのか、つまり商品の出所が明らかだとは必ずしも言えません。そういう商標について通常の商標として登録出願しても、特許庁での審査において、識別力が無いという理由で拒絶されてしまいます。例外的に登録される場合もありますが、その商標が既に全国的に有名になっていて、需要者が商品の出所を認識できる状態になっていると特許庁に認められた場合に限られます。実際の例としては、「夕張メロン」の商標があります。例外が認められるためには長期間にわたる使用実績と大量の証拠資料の提出が必要であり、ハードルはかなり高いといわれています。
2006年に導入された地域団体商標制度では、そのような全国的な知名度までは必要とされません。個々の商品・サービスによっても異なりますが、隣接する都道府県の需要者にまで知られていれば登録が認められるように、周知性の要件が緩和されています。地域ブランドを活用して地域の活性化を図ろうとする人たちにとっては利用しやすい制度となっています。
とはいえ、1.で挙げたような地域団体商標の要件をクリアすることは簡単ではなさそうですので、しっかりとした事前準備が必要です。事前準備として、特許情報プラットフォーム「J-Plat Pat」の商標検索データベースが便利です。検索のコツは、画面の下の方にある「検索オプション」→「出願種別」→「地域団体商標」のボックスをチェックすることで、検索結果を絞り込むことができます。最近の出願については、特許庁からの拒絶理由通知の内容やそれに対する意見書や手続補正書の内容も公開されていますので、特許庁の審査の厳しさがわかります。
3.GI(地理的表示)と地域団体商標の違い
過去の記事で解説したように、GIとは地理的表示のことです。商品の表示(商品名)を見れば、商品の産地がわかり、その産地に結び付いた品質上の特性を有した商品であることを国が保証するものです。例えば、「八丁味噌」、「いぶりがっこ」、「三輪素麺」などです。その名前を見れば、どの地域の産品であるか、どんな特性をもった産品であるかが何となくでもわかると思います。中には、「神戸牛」や「夕張メロン」のように、GIと地域団体商標の両方で登録されているものもあります。
GIと地域団体商標とでは管轄官庁が異なる(農林水産省 vs. 特許庁)他、様々な違いがあります。特に重要な違いについていくつか紹介します。
①品質の保証に関する違い
GI | 地域団体商標 |
・品質を保証する | ・直接的には品質を保証しない |
・登録された品質基準を満たした産品にしかGIを名乗ることはできない ・登録された生産者団体には、登録された品質基準や品質管理方法に基づき品質管理を行うことが義務付けられる ・最低でも年1回、国に品質管理に関する報告義務あり。品質担保のコストや手間は多大 | ・品質については商標権者である団体の自主管理に任されている ・団体内部の構成員間で提供する商品の品質にバラツキがあれば、地域団体商標全体としてのブランドイメージの低下につながりかねない ・商標権者である団体が自発的に高いレベルの品質基準を定め構成員に厳守させることで、高品質というイメージを定着させることに成功している有名な地域団体商標もある |
②対象産品に関する違い
GI | 地域団体商標 |
・農林水産物と酒類のみが対象 | ・あらゆる商品(例えば、刃物、陶磁器、漆器、食器、和紙、被服、履物、鞄、筆、人形などの工業製品や工芸品)、更にはサービス(飲食物の提供、温泉施設の提供など)が対象 |
③生産実績の程度に関する違い
GI | 地域団体商標 |
・地域と結びついた品質上の特性が既に確立していることが求められており、特性が確立していることの一応の基準として、生産実績が概ね25年程度必要 | ・商標の使用実績はそこまで長くなくても、ある程度周知になれば登録可能。比較的新しい商品やサービスであっても、宣伝広告活動を充実させることにより短期間で周知性を獲得できる場合もある |
④技術革新や市場ニーズの変化への対応に関する違い
GI | 地域団体商標 |
・一旦登録された産品の確立した特性や生産方法などの品質基準を変更するには、国に変更の登録申請を行い、再度審査を受ける必要あり ・例えば新たな生産方法に変更しようとしても、その結果、産地に由来する確立した特性が認められないようであれば、その変更が認められない場合もあり | ・商品の品質そのものや品質管理体制の整備は、登録のための審査対象とはなっていない ・新商品の開発、品質の向上、生産工程の刷新など、自由に取り組むことが可能 |
・地域の伝統的な生産方法や文化を、もとの形のまま維持する | ・地域の資源を活かした商品やサービスを時代に合わせてバージョンアップさせていきやすい |
今回は以上です。