最終更新日 2021-07-06
米国で商標を登録しようとするとき、登録した商標を維持しようとするとき、「商標の使用」について正しく理解する必要があります。出願、登録、維持、更新というステージごとに「商標の使用」について確認が求められます。
「米国は使用主義の国」、「使用証拠が必要」などと何気なく使っている言葉でも、米国商標法の下での「使用」の概念となると複雑すぎてなかなかスッキリと把握できないのではないでしょうか。
この記事では、「使用主義とは」、「出願、登録、維持、更新手続きにおける使用の概念」という2点に絞って解説します。併せて、米国の商標審査便覧(TMEP)には、商標の使用と認められる具体例が非常にわかりやすく記載されていますのでおススメです。ぜひ見ておいて欲しい箇所を紹介します。
1.使用主義とは
一般的に、商標に関する権利の発生を使用の事実にかからせること、と説明されています。登録することで権利が発生するという「登録主義」と対比して用いられる用語ですね。
使用主義を英語では、「first-to-use system」や「use-based right」などという言葉を使って表現することがあります。1つ目の表現からは、単に使用という事実があれば商標権が発生するのではなく「いちばん最初に使用した者(first to use)」が権利を持つことが読み取れます。2つ目の表現からは、使用がされている間はそれに基づき権利が生じている、つまり、継続的に使用されなくなれば権利は消滅するということが読み取れます。
使用主義に基づく権利の発生とは、簡単に言うと、その地域内で一番最初に商標を使用した者に商標を使用する権利が与えられるとするものです。そして、同じ地域内で他人が紛らわしい商標を使用した場合には、使用の中止を求めて裁判所に訴えることができます。
このような権利をコモンロー上の商標権と呼びます。米国においてコモンロー上の商標権を主張するためには、商標を商取引において使用(use in commerce)している事実があれば足ります。米国特許商標庁(USPTO)や各州政府における商標の登録を必要としません。
ちなみに、コモンロー(common law)とは、判例法を意味する英米法上の概念であり、裁判所の決定や見解の蓄積により確立された法典のことをいいます。成文法に対する概念です。商標を最初に使用した者が後発使用者に優先するということが古くから裁判所の判決を通して確立しており、その法理が米国内では基本的にどこでも共通(common)して適用されます。
このような場面における「商標の使用」は、誰に権利があるかを決める際に重要な概念です。どちらが先に商標を、どこで、どのように、どのような商品またはサービスについて使用したか、今も継続的に使用しているか等の事実を双方の証拠を比較し、誰に権利があるかを認定します。このような事実の証明はとても骨の折れることです。
2.出願、登録、維持、更新手続きにおける使用の概念とは
出願、登録、維持、更新の時に求められる「使用」の概念は、米国特許商標庁(USPTO)の審査官が認定できるように、もっとわかりやすく、客観的に定められています。商標の使用見本を提出させたり、虚偽を許さない宣誓書等において宣誓させたりすることで商標が使用されていることを確認する、という方法がとられます。
出願手続きや登録維持の手続きにおいては、USPTOの審査官が商標法で定める「使用」に該当するかどうかを判断します。そのため、判断の基準が明確に定められている必要があります。その基準となるのが、「TMEP」すなわち「Trademark Manual of Examining Procedure」(商標審査便覧)です。
TMEPのウェブサイトにアクセスして、画面右上の検索窓に「use」と入れて検索すると、使用に関連する項目が結果に表示されます。以下、使用の概念に関連するものについて解説します。
Use in Commerce
米国商標法では、商標の使用については、「use in commerce」(商取引における使用)である必要があります。「商標は、政府による法的規制の対象となる通常の取引において、商品またはサービスについて、誠実に(bona fide)使用されていなければならない」というのが基本的な考え方です。
加えて、商品についての使用の場合であれば、商品自体、商品の容器、商品と関連付けられたディスプレイ、商品に付けられるタグ若しくはラベルに、又は商品の性質上前記のように付けることができない場合にあっては商品若しくはその販売に関連する書類上に、方法を問わず商標が付されていて、その商品が商取引において販売されるか又は輸送されることが必要とされています。
例えば、日本の自動車メーカーA社が、米国内で販売する自動車のフロントグリルに同社の商標を取り付けたものを販売する行為です。
サービスについての使用の場合であれば、サービスの販売若しくは宣伝において商標が使用又は表示されていて、かつ、そのサービスが商取引において提供されるものである場合か、又はそのサービスが2つ以上の州若しくは米国と外国において提供されるものであってサービスを提供する者がサービスに関連する商取引に従事していることが必要とされています。
例えば、日本のレストランチェーンB社が、米国のX州Y市にレストランを出店していてレストランサービスを提供しているところ、レストランサービスを提供するにあたって、店舗の入り口の壁面に同社の商標を掲げる行為です。
商標が商品やサービスについてどのように使われていれば、商標の使用に該当するかは、TMEPの関連箇所(901, 901.01から 901.03)を読むことで知ることができます。
Specimens
「specimens」(使用見本)は、商標がどのように一般公衆の目に映っているかを示すものです。取引において商標が指定商品や指定役務について使用されてることを示す審査上の重要な資料となります。使用見本についてはTMEPの904に記載されています。
使用見本は、米国商標出願の出願ベースにより、提出時期が異なります。出願から登録後の維持において、適時必要となります。
使用見本上で使用の日付が特定できることは通常要求されません。現在も使用していることや、継続的に使用していることは、同時に提出する宣誓書や供述書などでその旨を明らかに表明することになります。
取引において商標が商品やサービスについて使用されている(in use)必要があるため、商品がまだ完成していない段階でのウェブサイトでの予約販売の受付けや、サービス提供開始前の宣伝や販売促進活動に関する使用見本は、商標の使用とは認められないとされています。(TMEPの904)
その他、適切な使用見本の例、使用見本には適さない例が具体的に挙げられているのでとても参考になると思います。(TMEPの904.03から904.04)
他にも、「Dates of Use」(使用の日付け)の項目も重要です。必要が生じたときに確認すればよいでしょう。(TMEPの903)
実際に審査官に対して手続をするのは資格のある米国弁護士です。しかし使用見本の提出で要求されていることがTMEPなどから理解できていれば、必要な資料や情報を米国弁護士に提供でき、手続きがスムーズに進むはずです。
TMEPを最初から読み通すというのも大変です。必要となっている手続きに関連した項目をTMEPのサイトで検索して、その部分だけでも目を通しておくということを継続すれば、実践的な知識が身についてきます。