使用主義の米国でも商標登録が必要な、知らなかったでは済まされない切実な理由

最終更新日 2022-08-12

米国は使用主義の国だから商標を登録しなくても使用していれば商標権が発生する、というのは間違いではありません。しかし、未登録で使用する場合のリスクを理解しておかないと、後で非常に困ったことになりかねません。

米国での商標登録の要否を正しく判断するためのポイントとして以下の3点について解説します。

  1. 未登録商標の使用に基づく権利の効力
  2. 未登録で使用するとどのような不都合が生じるおそれがあるか?
  3. 連邦商標登録で得られるメリットと必要な費用

この記事を読めば、使用主義の原則が貫かれている米国でも商標登録が必要な理由がわかり、登録にかかる費用の目安がわかります。

1.未登録商標の使用に基づく権利の効力

アメリカでは、商標が登録されていなくても、商標を使用しているという事実により商標権が発生します。しかし、その効力が及ぶ地理的範囲は、実際に使用している範囲に限られます。

例えば、アメリカの最東端にあるメイン州のオロノ市で営業するピザ屋Aがあり、店のロゴマークを商標として看板や店内の食器やナプキンなどに使用しているとします。ピザ屋Aのオーナーが最初にその商標をピザの提供サービスで使用していて今でも継続的に使用しているなら、同じオロノ市で別のピザ屋Bが同じか又は紛らわしく似た商標を使用していれば、Aは自らの使用に基づき発生する商標権に基づき、Bが商標権を侵害しているとして裁判所に訴えることができます。しかし、Aは、使用に基づく商標権を、遠く離れたカリフォルニア州のサンフランシスコ市のピザ屋Cに対しては行使することはできません。

仮に、インターネットのホームページで州全域又は全米に向けて宣伝しているとしても、実際に商標を使用してピザを提供している地域の範囲内でしか、使用に基づく権利は排他的効力を有しません。

全米で他人に商標を盗用されないよう保護したいのであれば、米国特許商標庁(USPTO)への登録(連邦商標登録)が必要になります。メイン州内でしか商標を使用しないという場合は、メイン州の登録簿に登録(州商標登録)するという方法があります。

使用に基づく商標権の効力は、商標が継続的に使用されている年月の長さ、他の商標と区別できる特異性、使用の頻度、宣伝広告の程度、認知度、使用の方法、類似商標排除のための活動の程度など、様々な要素によって相対的に決まります。

第三者に対して権利を主張する場合には、そのような権利を持っていることを客観的な資料をかき集めて自ら立証しなければなりません。それには大変な手間と時間がかかります。現地の弁護士を代理人に立てることになれば、弁護士費用は所要時間に基づき請求されます。

第三者との間で商標のトラブルが全く起きないのであればよいのですが、一旦起きてしまえば、膨大な時間と費用を奪われることになりかねません。

2.未登録で使用するとどのような不都合が生じるおそれがあるか?

商標を登録せずに米国内で使用していると、様々な不都合が生じるおそれがあります。例えば次のようなことです。

  • 他人の権利を侵害してしまうおそれ・・・同じ業種で他人がよく似た商標を先に使用していたにもかかわらず、それを知らずに使用していると、その他人に発見されれば、商標の使用中止や損害賠償を求める警告を受けるおそれがあります。
  • 事業拡大ができないおそれ・・・自分が使用している商標と同一又は類似の商標を他人に連邦商標登録されてしまうと、将来的に自分が使用している地域以外では商標を使用することができなくなるおそれがあります。
  • 商標の正当な所有権の証明が困難になるおそれ・・・使用に基づく権利を主張する際、いつから商標を開始したか、どういった地理的範囲内で使用しているか、どのように使用しているか、商標を使用したことによる売上の推移、商標を認知させるための宣伝広告活動、地域内でどの程度で認知されているか、など、商標権侵害の申立てに必要な証拠資料の準備に手間がかかったり、十分な証拠が用意できなかったりするおそれがあります。
  • 類似商標への対応に手間取るおそれ・・・事業が上手くいくと、その評判にあやかろうとして、よく似た商標が複数の他人によって使用され始めることがあります。他人の使用するそれぞれの商標との関係において自分の商標の権利範囲を分析し確定する作業が必要となり、相手に対する通告に手間取るおそれがあります。
  • 商標の「強さ」が弱まるおそれ・・・同じ業種で自分の商標とよく似た商標が増えてくると、自分の商標の特徴・特異性が次第に弱まっていき、類似商標と併存する状況が発生します。それが常態化すれば、裁判などで争う場合に、自分の商標の類似の範囲が狭く認定されてしまうおそれがあります。

連邦商標登録を取得し積極的に商標を使用すれば、このような不都合に煩わされることなく事業に集中できます。他人の紛らわしい使用が発見された場合でも、連邦商標登録があれば権利の有効性が推定されるため、立証の手間が省けます。

3.連邦商標登録で得られるメリットと必要な費用

連邦商標登録をすると得られる代表的なメリットは次のとおりです。以下は主登録簿に登録する場合のメリットです。

  • 登録した商標をその指定商品・サービスについて、アメリカ全土で独占排他的に使用する権利を有すると推定される。(先使用の第三者がいた場合はこの推定は崩れる。)
  • 登録した商標の所有者であることが推定される。(先使用の第三者がいた場合はこの推定は崩れる。)
  • 登録商標の所有者であることが全米に通知されたことになる。出願日以降に紛らわしい商標の使用を開始した他人に対して優位に立てる。
  • 審査において、他人の類似商標の出願を拒絶する理由として引用してもらえる。
  • USPTOのデータベースで検索可能なので、他人に類似商標の出願や使用を思いとどまらせるという牽制効果がある。
  • 商標に®マークを付けることができるため、登録商標であることが認知されやすい。
  • 模倣品の輸入を阻止してもらうため、税関に記録できる。
  • 登録後5年間継続使用され、現に取引において使用されていれば、不可争性の利益を取得することができる。これにより、他人が登録の取り消しを請求できる理由が制限されることで、権利が安定する。

これらのような大きなメリットある商標登録には、極めて大ざっぱですが、次のような費用がかかるようです。商標登録を取得したい区分の数によって費用は変わってきます。以下は、1つの商標を1つの区分に出願する場合に、日本と米国でそれぞれ代理人を使用する場合の費用を想定した概算の予測です。使用する代理人によって大きく異なりますので、あくまでも参考情報としてください。

  1. 商標調査費用(フルサーチの場合)・・・約15万円から30万円
  2. 出願から登録まで・・・約30万円から50万円
  3. 登録後の維持手続き・・・年間に約15万円から30万円

アメリカの商標調査は、通常、USPTOのデータベース上の商標検索に加えて、州登録商標、コモンロー上の商標(未登録の使用されている商標)の検索と弁護士の登録可能性レビューを含みますので、比較的高額になる場合が多いです。

このように、商標の出願、登録、維持にも相当の費用がかかります。出願の要否については、未登録での使用による商標権の性質、アメリカでの使用の方法、登録した場合のメリット、登録するための諸費用等を総合的に検討して決定する必要があります。

出願する場合には、コストに見合った効果が得られるような出願(適切な商標の採択、適切な商品・サービスの指定、代理人の選定)を行い、商標の適切な使用と管理に関する方針を決めることが大切です。