外国商標出願のための英語での指定商品の書き方とすぐに使える参考サイト

最終更新日 2024-08-25

  • 日本で登録した商標の指定商品・指定役務は翻訳すればそのまま使えるのか?
  • 何に気を付けて英訳すればよいのか?
  • 自分で英訳するときに何か参考になるものはあるか?

こういった疑問に答えます。

この記事の内容は次のとおりです。

  1. 日本の指定商品・指定役務の英訳が外国でそのまま使えない3つの理由
  2. 出願国の傾向を知り、主要な商品役務名データベースを活用する
  3. 米国とマドプロの商標データベースを使い商品名で検索し登録例を参考にする

私は海外の商標登録手続に20年以上かかわってきました。その経験に基づき、これからマドプロ出願や各国への個別出願をしようとして指定商品の書き方で悩んでいる方のために、ぜひ参考にしてもらいたい情報を紹介します。

ニース国際分類の分類上のポイントと具体的な英語での表現方法については、ブログ記事「【外国商標出願】商品名の英訳で困っていませんか?分類の基準とキーフレーズから解説!」にまとめましたので、是非ご一読ください。

1.日本の指定商品の英訳が外国でそのまま使えない3つの理由

【理由その1】 日本の特許庁が認めている商品役務の表示は、外国では「曖昧」「範囲不明確」と判断されるものが多い

ほんの一例ですが、第9類の「電子応用機械器具及びその部品」、第20類の「葬祭用具」、第30類の「菓子(肉・魚・果物・野菜・豆類又はナッツを主原料とするものを除く。)」、第41類の「興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」などは、その英訳を使って外国出願すると、審査において、曖昧、範囲が不明確と判断される国が少なくありません。

ちなみに、審査基準の特許庁英訳(参考表記)では、上記の商品・役務表示の英訳はこうなります。

電子応用機械器具及びその部品electronic machines, apparatus and their parts (※ 国際分類第12-2024版からはこの英訳は削除されています)
葬祭用具ritual equipment(※ 下記【理由その3】で説明する「注」が付されています)
菓子(肉・魚・果物・野菜・豆類又はナッツを主原料とするものを除く。)sweets, confectionery and snacks other than meat-based, fish-based, fruit-based, vegetable-based, bean-based or nut-based (※ 下記【理由その3】で説明する「注」が付されています) 
興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)organization of entertainment events excluding movies, shows, plays, musical performances, sports, horse races, bicycle races, boat races and auto races

英訳に基づいて商品・役務の内容が出願国ごとに把握されるので、上記の記載からはどこまでの範囲が含まれるのか明確とは言えません。国ごとに文化、経済、宗教などが異なるので、日本で認められている範囲と外国で認められる範囲が同じということはほとんど期待できないと思います。

上記の英語訳そのままでも登録が認められている国もあるので問題ないという考え方もあるかと思います。また、商品役務の記載が不明確だとする拒絶理由が出された場合に、適切に補正すればよいという考え方もあるかと思います。

しかし登録された後に、その英訳表現には実は重要な商品・サービスが含まれていなかったという事態は避けなければなりません。重要な商品・サービスが適切に保護されるように、具体的な商品名、サービス名を記載しておいた方がよいでしょう。

【理由その2】 日本独特の商品役務表示が多い

例えば、ござ、家庭用電気こたつ、布団側、ぜんざい、弁当、カレールー(カレーのルウ)、昆虫採集箱、建具(金属製のものを除く。)、人工池、直し、みりん、酎ハイ、布団の打直し、除染など、他にも様々な日本独特の商品・サービスがあります。また新しい商品・サービスもでてきます。

これらの中には、適切な英訳がないものもあり、ローマ字表記で表したり、説明的に表現を追加するなどの工夫が必要になります。また、記載不明確であるとして拒絶理由を受けた場合の対応において外国の審査官に商品を理解させるのにも苦労する場合が多いです。現地の代理人に十分な商品説明、サービスの内容説明をした上で、補正方法に関するアドバイスを受けながら対応していく必要があります。

【理由その3】 類似商品・役務審査基準の英訳もそのまま使えるわけではない

理由その1にもあげましたが、日本で認められる指定商品・役務の表示例の英訳は、特許庁のホームページの類似商品・役務審査基準で公表されています。そこに記載されている英訳は参考表記ということであり、マドプロ出願で国際事務局に受け入れられるかは、Madrid goods and Services Managerや、J-PlatPatの商品・役務名検索などのデータベースを利用してチェックする必要があります。

特に、類似商品・役務審査基準の英訳中で、英訳の直前に(注)と表示されているものは、過去にマドプロ出願で国際事務局に受け入れられなかったことがあるものです。そのまま使用しないよう注意すべきです。

出願後に指定商品役務が不明確であるとして拒絶理由が通知されると、その対応方法は国によって様々です。元の記載の範囲内であれば自由に補正が可能な国、その国独自の基準に合うような補正が求められる国、ニース国際分類アルファベット順一覧表に記載された表示への補正のみが求められる国などがあります。

出願国数が多くなると、全ての国に対して拒絶理由を事前に予測して回避することは、よほど単純な商品・役務の表示以外はほぼ不可能です。各国の代理人が事前に商標局に確認したとしても、担当審査官の判断を拘束することできません。過去の出願で認められた記載が別の出願では認められないというケースもよくあります。

とはいえ、メインとなる商品役務名のリストを英語で1つ作成できれば、それをベースに各国の代理人にその国のプラクティスにあった商品役務記載への提案を受けることができます。メインリストはしっかり作成しましょう。

2.【書き方 その1】出願国の傾向を知り、主要な商品役務名データベースを活用する

(1)出願国での受け入れられやすい指定商品の書き方を知り、可能な限り審査基準等にあたりそれに対応させる。

指定商品役務記載の受け入れられやすさの観点から、包括的な表示が許される国、具体的な表示が求められる国、その中間、ニース国際分類の表示しか認めない国、その国独自の審査基準に適合するよう要求する国、の5つのレベルに大別されます。

出願国の傾向をつかんでおき、その国の商品役務データベースで受入れ可能例を参考にしましょう。

これらの情報の入手方法は様々あります。一例として、マドリッド協定の加盟国のみの情報となりますが、WIPOの「Madrid Member Profiles」が参考になります。これは英語、フランス語、スペイン語のみの提供となっています。

このページにアクセスして、「1 Select members」で必要な国(例として、「Australia」)にチェックを入れます。右上の「Next」ボタンをクリック。「2 Select details」で、選択できるメニューの中から、「Information on procedures as a designated Contracting Party」のセクションにある「Examination system – Nice Classification」にチェックを入れます。そうするとその直下にある「Nice classification; class headings; specifications」にも自動的にチェックが入ります。右上の「Next」ボタンをクリックします。

それから、右上の「Next」ボタンをクリックすると「3 Member information」で、下記の情報が表示されます。

参考までに、次のようなことが書かれています。(一部のみ抜粋)

  • 商品・サービスの指定において、すべてのクラスヘディング(類見出し)の使用を受け入れている。
  • クラスヘディングを用いた場合、該当するクラスヘディンに列挙された商品・サービスの文字通りの意味のみをカバーする。
  • ニース分類のアルファベット順一覧表からのみ商品・サービスが選択されることを要求していない。
  • 1995年オーストラリア商標規則の規則17A.14に、願書において商品・サービスがどのように記載されるべきかを定めている。
  • オーストラリア商標局は、そのウェブサイトに、受け入れ可能な、好ましい表示のリストを掲載している。

(2)J-PlatPatの商品・役務名検索を活用する

商品・役務名検索を利用する場合には、データ種別に注目します。「TM5 IDリスト」、「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」、「WIPO Madrid Goods and Services Manager」での採用例がとくに重要です。

これらのリストを参考にすることで、適切なものがあればそのまま使用しても良いし、その表現を参考にして、必要となる限定(材質による限定、用途による限定)を英文表示に追加すると良い場合があります。日本で出願する際の注意事項ですが、特許庁のホームページに掲載されている「3.商品・役務の注意点」は外国出願の際にも参考になります。

ニースの表示の中でもそのままでは受け入れない国も多いので注意しましょう。日本で登録できた商品表示が、そのままでは外国では認められないことがあるのは上記のとおりですが、特に、データ種別の「審」が付されたものには要注意です。これらは通常、英訳はありませんので、自力で作成する必要があります。

これらは審査において商品・役務の内容を説明した上で受け入れられた表示なので、その内容がわからないまま安易にその表示を採用すると、実際の商品・役務がカバーされているかが不透明なのでリスクが高いです。そのまま英訳しても、商品の内容が審査官に伝わらなかったり、あるいは必要以上に広い範囲を包含するものとして把握される可能性があるので、必要に応じて、材質や用途による限定を加えることを検討します。

3.【書き方 その2】米国とマドプロの商標データベースを使い商品名で検索し登録例を参考にする

指定商品・役務の英訳を作成するには、米国の商標調査システム(Trademark Search system)とWIPOのマドプロ商標のデータベース(Madrid Monitor)が参考になります。

米国の商標調査システムを挙げた理由は、米国は具体的で詳細な商品・役務の表示を求める国の代表だからです。これに対応できる表示が作成できれば、様々な国においても指定商品役務記載のための基礎情報として利用できます。但し、米国しか使われないような独特な記載方法もありますので、全世界で認められるというわけではないことは覚えておいてください。

米国の商標調査システムは2023年の12月にリニューアルされました。新しい米国商標調査システムの使い方は、新しい米国商標調査システムの使い方その1(ドロップダウンサーチ)新しい米国商標調査システムの使い方その2(フィールドタグサーチ)新しい米国商標調査システムの使い方その3(Regexサーチ)で3回に分けて詳しく解説していますので、そちらを参照してください。

米国の商標調査システムでは審査の経過が見られます。審査官からのオフィスアクションの内容や出願人が提出した書類の内容を確認することができます。オフィスアクションには商品役務の区分の考え方、材質や用途等の限定の必要性など、審査官の判断や提案が書かれていますので、大変参考になります。Madrid Monitorでは、各国での拒絶通報のコピーが見られるのでこちらも大変参考になります。

それでは米国の商標調査システムから見てみましょう。一例として、冒頭で例示した第20類の「葬祭用具」(ritual equipment)が使われている出願例を検索してみます。今回の例では、最もシンプルなドロップダウンサーチを使います。左側のドロップダウンメニューから「Goods and services」を選択し、右側の検索ボックスに商品名をダブルクォーテーションマークで囲んで(”ritual equipment”)入力します。左側のサイドバー上で、「Live」「Registered」だけにチェック入れて、登録済みで現在も存続中の商標だけを検索結果に表示させます。また、「Class filter」では、「Coordinated」のチェックを外し、「020」にチェックを入れます。これにより、第20類を含むものだけが検索結果に表示されます。検索ボックスの右側で、「Expert」モードを選択します。その後、検索ボックスの右側にある虫眼鏡の図形の検索ボタンを押すと検索開始です。

検索結果を見ると、「ritual equipment」が20類の商品として登録されているものと、第35類の小売りサービスの対象商品として登録されているものがあります。19件の登録商標が検索結果に表示されましたが、すべて日本からの出願でした。第20類での登録例を見ると、「ritual equipment」だけでは登録されているものはなく、「ritual equipment, namely ……」のように具体的な商品や用途(for petsなど)を明記して登録が認められていることがわかります。

Madrid Monitorでも同様に調査できます。以下は、「advanced search」を選択し、第20類の「ritual equipment」で、マドプロ出願の本国官庁が「日本」、指定官庁が「米国、中国、欧州連合」の場合の例です。

検索結果を見ると、こちらもやはり、第20類と第35類(小売り・卸売りサービス)で「ritual equipment」が使われている商標が表示されました。ある国際登録では、中国指定では拒絶を受けずに登録されていますが、欧州連合と米国では「ritual equipment」は曖昧・不明確であるとして暫定拒絶通報が発せられた例がありました。興味がありましたら、実際に検索して、検索結果の詳細を追ってみると面白いと思います。

上記は使用例を簡単に説明するためのものですが、実際には、自作の英文を入力し、想定する国際分類でヒットするかをチェックします。長い商品名の場合はうまくヒットしないかもしれません。そんなときは商品名の一部分だけでサーチすることも有効です。サーチ結果をいろいろと組み合わせて適切な記載にたどり着くこともあります。またそうやって過去の登録例に触れている間に、利用できそうな商品記載例やその出願の審査経過など様々な有用な情報を得られることもあります。

自分が作る英語の商品・役務表示に自信が無い場合、英文法的に正しいかどうか不安な場合にも、登録になっている商品・役務表示を参考にしながら修正していくことで、より正確なものになっていくはずです。英語を母国語とする出願人(商標権者)の商品・役務表示を参考にするのも良い方法です。最初から完璧なものはできませんので、検索の力を借りながら完成させていきましょう。

ある程度しっかりした英訳ができれば、マドプロ出願に使用できます。また、外国出願をする際にも海外の代理人に出願指示をする際にも正しく商品や役務の内容が伝わり、より正確な現地語への翻訳が期待できます。もちろん、新しいタイプの商品やサービスの場合には、できるだけパンレットなどを添付してその内容や提供方法がわかるような資料を添付したほうが確実です。

上記の書き方は、日本の出願・登録の指定商品・役務に基づかないで外国出願用の指定商品・役務を書く場合にもそのまま使えます。いろいろ調べるのに時間やある程度の英語力を要しますが、商標出願においては指定商品役務の作成が権利範囲を画定する重要な部分となるので、決しておろそかにはできません。

米国では商標調査システムの他に、商品役務記載(identification of goods and services)のための検索可能なマニュアル、Trademark ID Manualがあります。ここには米国での審査で受け入れ可能な記載かどうかを確認することができます。使い方はやや難しいですが、2種類の詳細なヘルプページ(Searching the Trademark ID ManualGuidance for users)があります。これを使いこなせば適切な指定商品役務を英語で書けるようになります。

むすび

外国商標出願に使う指定商品・サービスの英語版を作成するために知っておくべき知識と利用可能なウェブサイトを紹介し解説しました。分類や表示が受け入れられるかどうかは、その国の審査官の判断によるところが大きいといえます。しかし、審査官は国際分類の基準や各国での審査基準等に従って審査をしているので、出願する側でも、これらの基準について知っておく必要があります。登録例などを適切に調査できるスキルは、いろいろな場面で役に立つと思います。

当事務所では、外国商標に関する様々なお困り事に対するサポートを行っています。外国商標出願用の指定商品の書き方がわからない、自分で作ってみたけれども誰かにチェックして欲しい、外国の審査官に商品が不明確だと拒絶されたがどのように対応してよいかわからない、など外国商標についてお困り事がありましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。ご相談はこちらのお問い合わせフォームから、お待ちしております。