米国商標|拒絶理由(オフィスアクション)の主な種類と知っておくと役立つ対応方法

最終更新日 2022-12-30

米国の商標制度では審査主義が採られていてます。申請された出願に対して形式的登録要件、実体的登録要件の審査が行われ、拒絶理由が見つかれば出願人に通知されます。拒絶理由通知(「オフィスアクション」または「OA」とも呼ばれます)は早ければ出願後2か月程度で発行。内容は様々で、日本の拒絶理由対応とは異なる対応が求められることも。今回は、米国でよく通知される拒絶理由とそれへの対応方法を解説します。

記事の内容

  1.  拒絶理由対応に関する一般的な知識
  2.  よくある拒絶理由の内容と対応方法

それでは、順番に解説します。

1.拒絶理由対応に関する一般的な知識

(1)拒絶理由通知の呼び方と種類

拒絶理由通知は、英語ではOffice Actionと言います。以下、オフィスアクションと呼びます。

オフィスアクションには、大まかに、Nonfinal Office ActionとFinal Office Actionの2種類があります。前者は、最後の拒絶理由の通知ではないことを意味する(ノンファイナル)オフィスアクション、後者は最後の拒絶理由の通知であるという意思を示すファイナル・オフィスアクションです。初めて拒絶理由を通知する場合のオフィスアクションはNonfinal Office Action、既に通知した拒絶理由が出願人からの応答によって克服できなかった場合に再度通知される拒絶理由がFinal Office Actionです。

細かい分類としては、「Examiner’s amendment」「Priority action」「Suspension letter」「Suspension inquiry」「Notice of incomplete response」などあります。これらの説明については、USPTOのウェブサイトに詳細な解説記事「Responding to office actions」が掲載されていますので、そちらをご参照ください。

(2)応答期間

ファイナルでないオフィスアクションも、ファイナルアクションであっても、応答期間はこれまで発行日(マドプロ経由の場合はWIPOへのオフィスアクションの通知日)から6カ月間でしたが、法改正により、2022年12月3日以後発行されるオフィスアクションの応答期間は3カ月間となりました。この場合、手数料125米ドルを支払い、請求により1回のみ、3カ月間の期間の延長が認められます。この改正は、マドプロ経由の米国指定については未適用であり、現在も応答期間は6カ月間のままです。また、登録後の手続きにおいて発行されるオフィスアクションについては、2023年10月7日にからの適用となります。

期限内に応答しなければ、出願放棄(abandoned)となります。ファイナルアクションの場合は、その応答期間内に審査官が拒絶理由を撤回できる状態にまでもっていくか、あるいは、その応答期間内に不服審判を請求しておかなければ出願放棄となります。この点は十分に気を付けてください。

(3)応答方法

日本の出願人の場合は、米国内に居住する米国商標弁護士などの代理人を介して応答します。願書の記載を補正する補正書の提出、審査官の認定に対して反論する意見書の提出が一般的な応答方法です。米国の代理人は、日本の出願人の事業内容や指定商品・サービスに関する知識、業界の常識などについて詳しくない可能性がありあます。拒絶理由に対して十分に応答できるように、応答期間内に米国の代理人との間で綿密で的確なコミュニケーションをとることが重要です。

2.よくある拒絶理由の内容と対応方法

(1)ディスクレーマー(Disclaimer)

商標を構成する文字やデザインなどの一部分について、指定商品・サービスの一般名称や品質・内容等を単に記述するものであると審査官が判断した場合に発せられます。その部分については独占的権利を主張しないことを出願人に表明させることで、他に拒絶理由がなければ、商標全体として登録が許可されます。ディスクレーマーは権利不要求とも呼ばれます。

ディスクレーマーが付される理由は、対象部分について、誰もが権利侵害の心配なく使用できるように開放しておく必要があるからです。

例えば、レストランサービスについての商標が「ABC Restaurant」の場合、「Restaurant」の語はそのサービスの提供場所を示す一般名称ですから、ディスクレーマーが要求されることは明らかです。そこで、「Restaurant」について商標権者が独占的権利を主張しないと宣言した後に登録されれば、他の人は権利侵害の心配なく自分のレストランの名称の一部に「Restaurant」を使用することができます。

日本では現在このような制度は採用されていないため、識別力の弱い部分があっても商標全体として識別力があれば登録されます。このため、日本で出願した商標をそのまま米国にも出願すると、ディスクレーマーを要求するオフィスアクションが発行されることが多いようです。

例えば商標を「日本〇〇〇」とする出願がなされたとします。日本語のような外国語で書かれた商標の場合、その音訳と翻訳を願書に記載する必要があります。そのため、商標を構成する「日本」の文字部分が音訳または翻訳によって特定されることで、商品の生産地を単に表示するものとして、ディスクレーマーを要求するオフィスションが出されることになります。(ディスクレーマーの例:NO CLAIM IS MADE TO THE EXCLUSIVE RIGHT TO USE THE JAPANESE CHARACTERS THAT TRANSLITERATE TO NIPPON APART FROM THE MARK AS SHOWN)

ディスクレーマーは、出願時に自発的に行うことでも可能です。こうすることで、ディスクレーマーを要求するオフィスアクションを回避できます。あるいは、審査官からオフィスアクションが出されるのを待って、ディスクレーマ以外の拒絶理由とまとめて一度に応答する形で、対応することも可能です。

審査官からのディスクレーマーの要求に対しては、識別力があるなどと主張して反論することは稀です。要求どおりにディスクレーマーを付すか、審査官が提案したディスクレーマーの文言を少し修正する場合が多いようです。

(2)商品・サービスの特定が不明確(Indefinite identification of goods and services)

この拒絶理由は日本からの出願の場合に最も頻繁に発せられるものではないでしょうか。日本では包括的な指定商品・サービスの表示でも認められやすいのに対して、米国では具体的な表示が要求されることがその一因だと思います。

例えば、「computer programs」という表示は日本では「コンピュータプログラム」でも認められますが、米国では、その目的や機能を明記することで範囲を明確にすることが要求されます(例えば、「recorded computer operating programs」や「downloadable computer game programs」。赤字部分によって明確になります)。

オフィスアクションにおいて審査官は、参考とすべき補正案の提案やどの部分を明確に記載する必要があるかを具体的に教えてくれます。商品・サービスの数や区分数が多ければかなりのボリュームになります。審査官から補正案が出された場合でも、審査官は出願人の業務分野を熟知しているわけではないので、提示された補正案を鵜呑みにすることは危険です。自社商品・サービスを的確に表現できるような独自の補正案を入念に検討すべきです。

また、米国では実際に取引において使用する商品・サービス以外は登録できません。拒絶の対象となっている商品・サービスについて米国で商標を使用する予定が無い場合は、拒絶理由への応答段階で削除しておきましょう。

(3)商標に関連する情報

商標が日本語の文字など、米国人にとっての外国語を含む場合には、その音訳と意味(翻訳)が必要になります。また図形商標であれば、図形の配置などを文字で説明し、色付きの場合は色彩の主張を行うかどうかを表明し、どこにどんな色が付されるかなどの説明が必要です。出願時にそれを記載していない場合には、この拒絶理由が出されます。

外国語の文字の音訳や翻訳の情報は、出願商標が識別力を有するかどうかの判断や、他人の既存の出願・登録商標と類似するかどうかの判断にも利用されます。どのような音訳、翻訳を提出するかによって審査結果が大きく変わる可能性があります。しかし、虚偽の説明をしないように注意してください。虚偽の説明であることが後に判明すれば、登録が無効となる場合があります。

(4)単に記述的である(Merely descriptive)

これは商標の識別性に関する実体的な拒絶理由です。出願商標が全体として商品・サービスの内容等をそのまま説明しているにすぎない商標であると審査官が判断すればこの拒絶理由が通知されます。上記の通り、日本語の文字を含む商標の場合にはその英語訳に基づいて判断されます。

この拒絶理由が発せられると、対応するにはかなり詳細な検討と証拠集めが必要になります。そのため、応答に要する費用は、これまで挙げた形式的な拒絶理由の場合よりも一般的に高額になります。

対応方法には次のような方法が採られます。

1.審査官の認定に対して意見書を提出して争う。この場合は、出願商標は商品・サービスの内容を暗示するにとどまり、直接的に説明していないため登録されるべきであるという主張がなされることが多い。

2.出願商標が記述的であるとしても、米国で長年(少なくとも5年以上)継続的に使用した結果、使用に基づく識別力(セカンダリーミーニン)を獲得したことを、証拠資料と共に立証する。米国で既に5年以上使用している場合には、この方法を検討可能。

3.現在の主登録簿での出願を補助登録簿での出願に補正する。マドプロ経由の米国出願の場合にはこの方法を採ることはできない。また、一般名称の商標(generic mark)であると審査官によって判断された場合もこの方法は使えない。

補助登録簿での出願では、原則として、使用に基づく出願であることが前提となります。そのため、米国での使用が開始されていない場合は、現在の出願が審査に継続している間に使用を開始する必要があり、その上での補正となります。補助登録に補正した後、5年間使用を継続した後に、再度、主登録簿での出願を行い、使用による識別力を獲得していることを主張します(the Principal Register with a Section 2(f) claim of acquired distinctiveness)。

補助登録簿への補正に関しては、【ブログ】米国商標で補助登録を取得することのメリットと注意点で詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

(5)混同のおそれ(Likelyhood of confusion)

これは他人の既存の登録商標と紛らわしく類似する場合に発せられる実体的な拒絶理由です。日本でもこのような拒絶理由を受けることはよくあることですが、米国の場合は、商品・サービスの類似の範囲がやや分かりにくいという点で予測が難しいといえます。日本のような「類似群」の概念がありませんので、審査官が類似の範囲を広く解釈して他人の登録商標を拒絶引例として挙げてくることがあります。

例えば、第9類の「サングラス」を指定する出願に対し、第25類の「ジャケット」などを指定する登録商標と類似するとして拒絶されることがあります。どちらもファッション関連商品であり、需要者が共通するからです。

この拒絶理由の場合も、対応方法についての検討費用は一般に高額になります。引用された商標の現況確認や登録内容の確認に加えて、商標の類似性、商品・サービスの関連性など検討事項が多いためです。

対応方法としては以下が挙げられます。

1.審査官の認定に対して意見書を提出して争う。商標が外観・称呼・観念・商業上の印象において非類似であること、商品・サービスの顧客層、提供方法、流通経路が異なり互いに関連性がないこと、継続して使用されておらず引用商標は放棄されていること、併存登録が多数存在するため引用商標の類似の範囲は狭いことなど、様々な観点から反論する。

2.抵触する商品・サービスを削除するか、その目的、機能、提供方法、対象顧客層などを限定する補正を行う

3.引用商標が使用されているかどうかの調査を行う。不使用の場合は登録取消手続きを検討する。

4.引用商標の包袋履歴を精査し、手続き中にフロードに該当するものはないか調査する。あれば登録取消手続き検討する。また出願手続き中に自らの権利範囲を狭めるような主張をしていないか確認する。

5.商標が同一でなければ、引用商標の権利者にアプローチし、同意書(コンセント)を取得する。但し、米国では同意書を取得したとしても未だ混同のおそれがあると審査官が判断すれば拒絶理由は解消しないため十分な事前検討が必要。ほぼ同一の商標の場合は、同意書は通常、審査官には考慮されない。

(6)その他の理由(単なる姓に過ぎない、使用見本に関する拒絶など)

出願商標が、出願人の代表者等の苗字のみから成るものであって、苗字であると一般的に理解されやすいものである場合には、単なる姓にすぎないという拒絶理由が発せられる場合があります。そのような商標を出願する場合には、事前に米国の代理人から登録可能性について見解を得ておくと安心です。

マドプロ経由の出願を除き、提出された使用見本が取引における商標の使用状態を適切に表していない場合には拒絶理由が発せられます。その場合には、代わりの使用見本を提出することができます。例えば、会社の正式名称のみからなる文字商標の場合には要注意です。使用見本において、会社名称が単に商品の製造者・販売者を特定する表示として住所や電話番号と一体として表示されている場合には、出願人の所在地情報を示しているにすぎないと判断され、商標として使用されているとは認められない可能性があります。

商標の使用と使用見本(Specimen)については、【ブログ】米国商標法の使用の概念とTMEP(商標審査便覧)でも詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

以上、米国におけるオフィスアクションの主な内容と対応方法の基本的事項について紹介しました。まだこの他にも日本人にとっては珍しい拒絶理由がいろいろあります。オフィスアクションにタイムリーに適切に対応するためには、現地代理人との綿密なコミュニケーションが不可欠です。商標を実際に使用する出願人からの詳細な商品情報、業界情報などの情報提供が成功のカギとなります。

当事務所では、外国商標に関する様々なお困り事に対するサポートを行っています。米国商標出願でオフィスアクションを受けた場合の対応方法がわからない、米国の代理人に適切な指示を出すにはどうすればよいかわからない、など外国商標についてお困り事がありましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。ご相談はこちらのお問い合わせフォームから、お待ちしております。