最終更新日 2024-08-25
日本でも外国でも商標を登録しようとすると、願書において国際分類ごとに商品・役務(サービス)を指定する必要があります。しかし、自分が願書に記載しようとする商品・サービスが、国際分類の第1類から第45類のどれに属するのか迷ってしまうことがあります。
そもそも分類はどのように決められるのでしょうか?基準のようなものはどこにあるのでしょうか?
この記事では世界共通の分類を目的として作られ、日本を含む多くの国で採用されているニース国際分類を取り上げ、分類の基本となる考え方を解説します。
目次
外国出願での指定商品の英訳方法についてニース国際分類の基準を押さえた表示のポイントと役立つ英語表現をまとめたブログ記事「【外国商標出願】商品名の英訳で困っていませんか?分類の基準とキーフレーズから解説!」も、是非ご一読ください。
1.ニース国際分類の概要
ニース国際分類は、「標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関するニース協定」(ニース協定)に基づいて定められた商品及びサービスの分類です。ニース協定はWIPOが管理する条約の1つであり、各国共通の分類を採用することを目的としています。
ニース協定の加盟国は2024年8月現在93の国と地域です。加盟国には、ニース国際分類の採用が義務付けられています。加盟国以外でもニース国際分類を自国の分類として採用している国は多くあります。そのため、世界のほとんどの国でニース国際分類が使えると思ってよいでしょう。日本は1990年2月20日に加盟国となり、1992年4月1日から国際分類(第6版)が採用されました。
ニース国際分類では、商品を第1類から第34類に、サービスを第35類から第45類に分類します。各分類に属する商品・サービスの具体例が一覧表に掲載されて公表されています。英語版とフランス語版が正文とされています。日本は英語版を利用しており、その日本語訳が公表されています。
ニース協定の各加盟国は、国際分類の効果をそれぞれ定めることができます。例えば、加盟国であるイランでは飲酒は禁止されているため、第33類の酒類と第32類のビールなどを指定する商標は登録できません。また、同じ商品でも国によって分類が異なったり、表示の保護範囲の評価が国によって異なったりと、各加盟国が決めることができます。
ニース国際分類は5年に1度改正されます。現在は第12-2024版が使われています。5年毎に分類の変更や新設を伴う大規模な改正がなされて、版の番号(現在は第12版)が変わります。加えて、1年毎に表示の追加・変更・削除が反映されるので年度(現在は2024年バージョン)が記載されます。新しく商標登録出願をする時には、その時点で最新の版に準拠します。一方、過去に登録された商標の保護範囲を確認するときは、どの版の国際分類に準拠しているかを確認する必要があります。
2.ニース国際分類表の構成
ニース国際分類表は、「一般的注釈」、「類別表(注釈付き)」、「商品・サービス表示(アルファベット順一覧表)」から構成されています。ニース国際分類表は、特許情報プラットフォームから、直近の3つの版の日本語訳を入手することができます。
「一般的注釈」には、商品・サービスの分類のされ方についての大まかなルール・基準が書かれています。「類別表(注釈付き)」、「商品・サービス表示(アルファベット順一覧表)」を使っても商品・サービスを分類できないときには、ここで示される基準を使って分類します。
「類別表(注釈付き)」には、分類ごとに「類見出し」(クラスヘディング)が示されています。各分類に属する商品又はサービスの範囲が大まかに示されています。注釈の部分には、それぞれの分類でどのような商品が含まれ、どのような商品が含まれないかが説明されています。
「商品・サービス表示(アルファベット順一覧表)」には、具体的な商品名やサービス名がアルファベット順に列挙され、それぞれがどの分類に属するかが示されています。この中に出願しようとする商品・サービスに該当する表示があれば、その分類と表示を使用することができます。分類がわからない場合は「全類通しアルファベット順一覧表」を使って、商品・サービス名から分類を特定します。分類がわかっている場合は「類別アルファベット順一覧表」を使って、その分類に属する商品・サービス名の中から選びます。余談ですが、日本語版には、商品・サービス毎に対応する日本の「類似群」も書かれています。
このようなPDFファイルの一覧表に代えて、インターネット上のデータベースを使って簡単に検索できます。
例えば、
- 特許情報プラットフォームの「商品・役務名検索」を使う方法。日本語又は英語で商品・サービス名を検索することができます。「データ種別」のところで「N」(ニース分類)のみを選択すれば、検索範囲をニース国際分類の表示に絞り込むことができます。
- WIPOのIPポータルの「Madrid Goods & Services Manager」(MGSM)を使う方法。ここではニース分類以外にも、マドプロでこれまでに認められた商品・役務名の表示も検索できます。検索窓の下にある「NICE only」にチェックを入れれば、ニース分類のみ商品・サービスを検索することができます。
- 同じくWIPOのIPポータルの「NICE Internet Publication」(NCLPUB)にアクセスする方法。こちらは英語かフランス語専用で、高度な検索ができます。「Modifications」のタブで分類を選択すると変更された表示を一覧できます。
3.一般的注釈にみる分類の基準
分類の決められ方を見てみましょう。まず第一に、類見出し、注釈、アルファベット順一覧表を使って、最も該当する類に分類されます。そうやっても該当する類が明らかでない場合には、「一般的注釈」に定められた基準を使って分類されます。一般的注釈では、商品とサービスに分けて基準が示されています。一般的注釈の英文テキストを上記NCLPUBから引用し、かみ砕いて拙訳で解説します。
(1)商品
(a) 完成品(finished product)の場合
A finished product is in principle classified according to its function or purpose. If the function or purpose of a finished product is not mentioned in any class heading, the finished product is classified by analogy with other comparable finished products, indicated in the Alphabetical List. If none is found, other subsidiary criteria, such as that of the material of which the product is made or its mode of operation, are applied.
- 機能(function)又は目的(purpose)によって分類する。
- 機能又は目的が類見出し中に言及されていなければ、アルファベット順一覧表中の他の完成品から類推して分類する。
- 類推する他の完成品がなければ、材質(material)又は作動方式(mode of operation)などの二次的な基準によって分類する。
例:leather parkas (Class 25) パーカーは被服としての機能・目的を有するから25類に分類される。機能又は目的で分類を決めることができるので、皮革製という材質による二次的基準は適用されない。
例:adhesive labels of metal (Class 6), adhesive labels of paper (Class 16), adhesive labels of leather (Class 18), adhesive labels of plastic (Class 20), adhesive labels of textile (Class 24) 粘着性ラベルは、識別用、安全用、装飾用、医療用、業務用など様々な機能・目的があり、機能又は目的で分類することができないため、材質によって分類されている。
例:prefabricated buildings made substantially of metal (Class 6), prefabricated non-metal buildings (Class 19)
(b) 複数の目的を持つ複合物である完成品(ラジオ付き時計など)の場合
A finished product which is a multipurpose composite object (e.g., clocks incorporating radios) may be classified in all classes that correspond to any of its functions or intended purposes. However if a good has a primary purpose it should be classified in this class. If those functions or purposes are not mentioned in any class heading, other criteria, indicated under (a), above, are to be applied.
- 機能又は用途(intended purpose)に対応するどの類にも分類できる。
- 主たる目的(main purpose)を持つ商品であれば、その類に分類する。
- 機能又は目的が類見出し中に言及されていなければ、材質、作動方式などの基準を適用する。
例:radios incorporating clocks (Class 9), clocks incorporating radios (Class 14) どちらにも分類できると言っても、実際は表示上どちらかを主にしてその類に分類している。
(c) 未加工又は半加工の原材料の場合
Raw materials, unworked or semi-worked, are in principle classified according to the material of which they consist.
- 原材料を構成する物質の材質を基準として分類する。
例:gold, unworked or semi-worked (Class 14), semi-processed paper (Class 16), raw or semi-worked rubber (Class 17), unworked or semi-worked glass, except building glass (Class 21)
(d) 他の製品の一部となることを目的として作られた商品の場合
Goods intended to form part of another product are in principle classified in the same class as that product only in cases where the same type of goods cannot normally be used for another purpose. In all other cases, the criterion indicated under (a), above, applies.
- それと同じ型の商品(the same type of goods)を通常では他の用途に使えない場合に限って、その製品と同じ類に分類する。
例:brushes for vacuum cleaners (Class 7), ashtrays for automobiles (Class 12), coffee filters, not of paper, being parts of electric coffee makers (Class 11)
(e) 材質に従って分類される商品(完成品であるか否かを問わない。)であり、かつ複数の材料から成る商品の場合
When a product, whether finished or not, is classified according to the material of which it is made, and it is made of different materials, the product is in principle classified according to the material which predominates.
- 主たる材料の材質に従って分類する。
例:milk beverages, milk predominating (Class 29), coffee beverages with milk (Class 30)
(f) ケース類の場合
Cases adapted to the product they are intended to contain are in principle classified in the same class as the product.
- 収納しようとする商品の形状にピタリと適合するように作られたものであれば、収納しようとする商品と同じ類に分類する。
例:cases for smartphones (Class 9), bags adapted for baseball bats (Class 28)
(2)サービス
(a) 原則として
Services are in principle classified according to the branches of activities specified in the headings of the service classes and in their Explanatory Notes or, if not specified, by analogy with other comparable services indicated in the Alphabetical List.
- サービスは、類見出し及び注釈に記載された事業分野(branches of activities)に従って分類する。それができない場合は、アルファベット順一覧表中の他のサービスから類推して分類する。
例:providing online virtual guided tours (Class 41) 興行の企画・運営又は開催サービスからの類推。
(b) 賃貸サービスの場合
Rental services are in principle classified in the same classes as the services provided by means of the rented objects (e.g., Rental of telephones, covered by Cl. 38). Leasing services are analogous to rental services and therefore should be classified in the same way. However, hire- or lease-purchase financing is classified in Cl. 36 as a financial service.
- 賃貸の目的物によって提供されるサービスと同じ類に分類する。
- リース方式による賃貸サービス(leasing services)は上記と同様に分類する。
- 分割払い購入資金の貸付け(hire-purchase financing)又は賃借満期購入方式の金融(lease-purchase financing)は、金融サービス(financial service)として第36類に分類する。
例:rental of cellular phones (Class 38), rental of movie films (Class 41)
(c) 助言・情報又は指導の提供のサービスの場合
Services that provide advice, information or consultation are in principle classified in the same classes as the services that correspond to the subject matter of the advice, information or consultation, e.g., transportation consultancy (Cl. 39), business management consultancy (Cl. 35), financial consultancy (Cl. 36), beauty consultancy (Cl. 44). The rendering of the advice, information or consultancy by electronic means (e.g., telephone, computer) does not affect the classification of these services.
- 助言・情報又は指導の内容に対応するサービスの分類と同じ類に分類する。
- 助言・指導・情報が電子的手段(例えば、電話、コンピュータ)によって提供されることは、これらのサービスの分類に影響を及ぼすものではない。
例:transportation consultancy (Class 39), business management consultancy (Class 35), financial consultancy (Class 36), beauty consultancy (Class 40)
(d) サービスが提供される手段は、原則としてサービスの分類に影響を及ぼさない
The means by which a service is rendered in principle does not have any impact on the classification of the services. For example, financial consultancy is classified in Cl. 36 whether the services are rendered in person, by telephone, online, or in a virtual environment. However, this remark does not apply if the purpose or result of a service changes due to its means or place of delivery. This is the case, for example, when certain services are rendered in a virtual environment. For instance, transport services belonging to Cl. 39 involve the moving of goods or people from one physical place to another. However, in a virtual environment, these services do not have the same purpose or result and must be clarified for appropriate classification, e.g., simulated travel services provided in virtual environments for entertainment purposes (Cl. 41).
- 提供の手段や場所によって、サービスの目的や結果が変化する場合は分類が変わる場合がある。例えば、あるサービスが仮想空間で提供される場合がこれにあたる。
例:simulated travel services provided in virtual environments for entertainment purposes (Class 41) (娯楽のための仮想空間において提供される模擬旅行の実施)(第41類)
(e) フランチャイズの枠組みにおけるサービスの場合
Services rendered in the framework of franchising are in principle classified in the same class as the particular services provided by the franchisor (e.g., business advice relating to franchising (Cl. 35), financing services relating to franchising (Cl. 36), legal services relating to franchising (Cl. 45)).
- フランチャイザーが提供する特定のサービスと同じ類に分類する。
例:business advice relating to franchising (Class 35), financing services relating to franchising (Class 36), legal services relating to franchising (Class 45)
4.むすび
ニース国際分類の概要と一般的注釈を中心とした分類の決められ方を紹介しました。一般的注釈は読み取り難く、具体例を見てもしっくりこないものもあります。実際、決められたはずの分類や表示が、毎年行われる見直しによって変更されるものもあります。NCLPUBなどを利用して最新版での変更内容をフォローしておきましょう。分類の基準を知っておけば、審査官との対応の場面でも役に立つことが多いです。ただし、国際分類の効果をそれぞれの加盟国で決めることができる点にも注意しましょう。他の国で認められている表示が日本では認められていないものもあり、その逆も存在します。
当事務所では、外国商標に関する様々なお困り事に対するサポートを行っています。外国出願をしようとする商品の分類や適切な表示がわからない、外国出願の審査でオフィスアクションが出され一部の商品表示が不明確、分類が不適切との指摘を受けたが対応方法がわからない、など外国商標についてお困り事がありましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。ご相談はこちらのお問い合わせフォームから、お待ちしております。