最終更新日 2024-08-25
Madrid Monitorは、WIPO(世界知的財産機関)が提供する商標の国際登録のデータベースです。このデータベースを使えば、自分や他人(ライバル企業など)の国際登録の現況(国際登録の詳細、指定国での審査状況を含む。)を知ることができる他、使い方次第で、様々な有用な情報を入手することができます。
今回は、「指定国での審査結果を閲覧することでその国の商標の審査の概要を知ることができる」という賢い使い方を紹介します。ただし、審査結果を知るには、少なくとも英語を理解できる必要があります。
という順番に解説します。
1.指定国での審査結果(「暫定拒絶通報」)の入手方法
商標の国際登録出願(以下、マドプロ出願)を行うと、マドプロ出願の願書で指定された国の官庁は、商標の登録を拒絶する場合には、あらかじめ拒絶の通報を行わなければなりません。そして拒絶の通報(「暫定拒絶通報」(Notification of Provisional Refusal))は、国際事務局を経由して出願人(又は代理人)に送付されます。拒絶しない場合には、保護を認容する旨の通知(「保護認容声明」(Statement of Grant of Protection))が送付されます。
その暫定拒絶通報は、PDFファイルで保存され、各国際登録の経過記録として閲覧可能となっています。Madrid Monitorで検索された国際登録の、指定国のタブ(「By Office」というタブ)又は書類のタブ(「Documents」というタブ)を進んでいくと、暫定拒絶通報が発送された場合には、その書類を閲覧することができます。(2023年6月15日現在、指定国のステータスの表示方法をわかりやすくしたバージョンも併せてリリースされていますが、そこでは、「Designation Status」というタブから進んでいくことで、たどり着けます。)
多くの指定国での暫定拒絶通報は英語で書かれています。ベトナムは英語又はフランス語で書かれています。
Madrid Monitorに記録されている審査情報は限られていて、暫定拒絶通報が発せられた後は、その後の審査結果のみが「最終拒絶」又は「保護認容声明」として表示されます。暫定拒絶通報に対する応答内容を見ることはできません。
2.どのような観点から情報を入手するか?
上記により、マドプロ出願では、Madrid Monitorを使えば、指定国での拒絶理由通知の内容を閲覧できることがわかりました。指定国での暫定拒絶通報の内容を入手し吟味することで、特定の指定国について、例えば次のことが調べられます。
- 指定商品・役務の記載不明確について、どの程度厳格に審査を行うか?
- 商標の識別力に関して、どの程度厳格に審査を行うか?
- 日本語のみからなる商標は、拒絶されやすいか?
- 2文字や3文字のアルファベットからなる商標は、拒絶されやすいか?
- 「日本」「Japan」など国名を商標の構成要素に含む商標は、拒絶されやすいか?
- 会社名称そのものの出願は、拒絶されるか?
- 他人の商標と類似するとして拒絶される場合の、類否判断はどの程度厳格か?
- その国独特の拒絶理由(方式的なものを含む)はあるか?
- その国の暫定拒絶通報の書式やパターンはどんな感じか?
調べ方としは、Madrid Monitorの検索画面で、「advanced search」を選択し、件数を絞るために必要に応じて本国官庁(Origin)に「JP」(日本)と入力し、ベトナムの暫定拒絶通報を調べたければ、末尾の「Transaction」に「RFN* VN」と入力します。「RFN*」とは、「RFNP」(部分拒絶)と「RFNT」(全体拒絶)のどちらも検索するために4文字目を「*」に置き換えています。そして半角スペースの後に、希望の国コードを1各国分入れます。そして、右下の「Search」ボタンを押します。
そうすると、日本を本国官庁としたマドプロ出願でベトナムを指定し、ベトナムで暫定拒絶通報が出された国際登録の一覧が検索結果として表示されます。その結果から、興味のあるものを選んで、その暫定拒絶通報を閲覧すると、上記のような情報を得ることができます。
他社のこれまでの出願商標の文字列や図形を見て、それがどのような拒絶理由を受けたかを確認することで、自社がよく似た構成の商標を出願する場合のリスクをある程度想定することができます。
また、指定商品・役務の記載ぶりをみて、それが不明確だとして拒絶されたかどうかもチェックすることができます。
3.更に詳しい情報を知るには?
暫定拒絶通報が出された後の出願人の応答内容については、残念ながらMadrid Monitorからは確認できません。結果の表示があるだけです。しかも、最終結果が表示されるまでにかなりの時間を要しています。
一部の国では、自国の商標データベースに、出願人との書類のやりとりをすべて記録し、第三者からの閲覧可能になっているものがあります。例えば、米国特許商標庁(USPTO)の「Trademark Search system」、欧州連合知的財産庁(EUIPO)の「eSearch plus」などは、利用しやすいです。
これらのデータベースを使って、暫定拒絶通報が発せられた後、出願人がどのような応答をして、それを審査官がどう判断したか、を詳しく知ることができます。
むすび
マドプロ出願を管轄するWIPOでは、情報公開が進んでおり、WIPOが提供するMadrid Monitorはとても利用しやすいデータベースです。自社の国際商標の手続きをフォローするだけでなく、他社の動向も知ることができる上、指定国の審査の内容まで伺い知ることができます。調査のポイントを明確にして、暫定拒絶理由通知の内容と出願商標を見比べることで、効率よく有用な情報を得ることができます。
当事務所では、外国商標に関する様々なお困り事に対するサポートを行っています。Madrid Monitorの使い方がよくわからない、身近にMadrid Monitorなどのデータベースの使い若に詳しい人がひない、など外国商標についてお困り事がありましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。ご相談はこちらのお問い合わせフォームから、お待ちしております。