最終更新日 2023-06-28
スーパーや百貨店、酒屋さんや地方のアンテナショップで買い物をしたり、ふるさと納税の返礼品を探したりすると、「地理的表示」とか「GI」の文字や特徴的なマークがついた品物を目にすることがあります。一体これにはどんな意味があるのでしょう?
地理的表示について、知っておくと買い物が楽しくなるポイントを4つ紹介します。
- 日本では、地理的表示は、農水省が登録するものと国税庁長官が指定するものがある
- 地理的表示として認定されると何がいいの?
- 地理的表示のついた産品を選ぶときの注意点は?
- 地理的表示とよく似たコンセプトの地域団体商標との違いは?
それでは早速、解説します。
1.日本では、地理的表示は、農水省が登録するものと国税庁長官が指定するものがある
まず、地理的表示とは何かおさらいしておきましょう。くわしい解説は、別記事「地理的表示を身近な例から説明します」、「TRIPS協定は地理的表示を最初に定義した国際条約」などをご覧ください。
地理的表示とは、特定の地域で作られた産品が、その地域ならではの自然的要因・伝統に由来する「確立した特性」を持っていること証明することができる特別な表示・目印のことです。GI(ジーアイ)は、地理的表示の英語表記「Geographical Indications」の頭文字をとったものです。地理的表示は特許権、商標権、著作権などの知的財産権の一種であり、「地域の共有財産」として保護されます。
例えば、日本の農林水産物での地理的表示登録第1号となった地理的表示は「あおもりカシス」です。この名称を名乗れるのは、青森県の東青地域で作られ、あらかじめ決められた生産基準を満たした、登録簿で特定された特性を有する「カシス」のみです。登録簿の詳細については、登録の公示を参照してください。
農林水産省のウェブサイトの「登録産品一覧」を見ると、これまでに登録された地理的表示がわかります。ほんの一例を挙げると、「夕張メロン」、「いぶりがっこ」、「すんき」、「越前がに」、「飛騨牛」、「特産松阪牛」、「八丁味噌」、「近江牛」、「但馬牛」、「神戸ビーフ」、「三輪素麺」、「鳥取砂丘らっきょう」、「下関ふく」、「徳島すだち」、「八女伝統本玉露」、「大分かぼす」、「種子島安納いも」、「琉球もろみ酢」などです。全国的によく知られているものから、まだあまり知られていないものまであります。平成27年12月22日の最初の登録から令和5年3月31日の登録までで、131の地理的名称が登録(その内2件は削除)されています。
地理的表示として登録された農林水産物には、地理的表示に加えて下記の地理的表示マークをつけることができます。マークが付けられることで、地理的表示として認定された農林水産物であることがわかりやすくなります。
日本の酒類の地理的表示では、平成7年6月30日に、蒸留酒の区分で、「壱岐」(長崎県壱岐市)、「球磨」(熊本県球磨郡及び人吉市)、「琉球」(沖縄県)がそれぞれ指定されています。この名称を使うことができるのは、それぞれの地域で作られ、あらかじめ決められた生産基準を満たし、それぞれの酒類の特性を有する蒸留酒(焼酎、泡盛など)のみです。例えば、「壱岐」の生産基準によれば、「壱岐」という地理的表示が付される焼酎は、米こうじと大麦と、ミネラルが豊富で清廉な壱岐の地下水を原料とする麦焼酎であり、「麦由来のさわやかな香りと米こうじの甘く厚みのある味わいを有し」、「原料の水に由来するキレの良い飲み口を有している」という特性を有しています。
国税庁のウェブサイトの「酒類の地理的表示一覧」を見ると、これまでに指定された地理的表示がわかります。令和に入ってからは、「はりま」、「三重」、「山梨」、「利根沼田」、「萩」、「佐賀」、「長野」、「新潟」、「滋賀」といった、清酒の区分の地理的表示の指定が目立っています。平成7年6月30日から令和4年4月13日までで、ワイン、梅酒のカテゴリーを含み、20の地理的表示が指定されています。一覧の中の生産基準の欄にある「別紙」をクリックすると、酒類の特性、原料・製法、特性の管理方法などの詳細が記載されています。
酒類の地理的表示には、地域で定める特定マークをにより表示することができます。それぞれデザインが凝っていて見ていて楽しいです。インターネットで「酒類 地理的表示マーク」と検索すると簡単に画像を見ることができます。
2.地理的表示として認定されると何がいいの?
生産者にとってのメリットは、その名称を使えるのは、登録を受けた地域生産者団体に属する生産者が生産する、決められた生産基準を満たした産品だけなので、国のお墨付きを受けた地域の特産品として、消費者にアピールできます。
消費者にとってのメリットは、地理的表示がつけられた産品であれば、産地、商品特性など、品質が保証されているという安心感が得られます。
特定の地域で、特定の生産基準を満たした産品を作るには相当なコストがかかります。品質に見合った適正な価格であれば多少高価であっても消費者は地理的表示のついた産品を選択するという流れが定着すれば、他の産品との差別化を図ることができ、ブランドとしての価値が高まっていきます。
3.地理的表示のついた産品を選ぶときの注意点は?
実際のところ、地理的表示を見て、生産地は簡単にわかっても、確立した特性、特性と産地の結びつき、産品の生産基準については一般消費者にはよくわかりません。これらの内容については、上記で紹介した農水省、国税庁の地理的表示一覧に掲載されています。購入しようとする地理的表示産品の登録内容を事前にチェックしておくと理解が深まります。
地理的表示が「地域の共有財産」であるという性質上、特定の生産地内の生産者であり、登録された生産者団体に加入していて、あらかじめ決められた生産基準を満たした産品であれば地理的表示を謳うことができます。生産基準は最高品質のものを作るためのものである必要はありません。逆に、高い生産基準を設定してしまうと、地域内で基準を満たすことができる生産者が限られてしまい、「地域の共有財産」とはいえなくなる可能性もあります。このことは、この制度は、一定の品質は保たれながらも、生産者間における品質のバラツキは織り込み済み、ということを意味します。
4.地理的表示とよく似たコンセプトの地域団体商標との違いは?
「地理的表示の登録(認定)を受けました!」という商品の宣伝文句の他に、「地域団体商標登録が認められました!」という宣伝文句を目にすることがあります。
どちらも地域の特産品などの名称に対して認定されるものです。地域団体商標は、特許庁が登録する商標登録の一種です。商品やサービスの出所を表す標識です。地域団体商標の登録案件は、特許庁のウェブサイトの「地域団体商標登録案件一覧」で都道府県毎に見ることができます。
地域団体商標は、「地域の名称+商品(サービス)の普通名称」からなる文字のみからなる商標です(愛知県内の例:「有松鳴海絞」、「蒲郡みかん」、「一宮モーニング」、「豊橋カレーうどん」)。地域団体商標として登録されると、地域団体商標と併せて次のようなマークを使うことができます。商品の包装などに使われているのをよく見かけます。
地理的表示では日本では農林水産物か酒類が対象となっていますが、地域団体商標では地域の特産物であれば商品の種類に制限はなく(例えば、薬、刃物、食器類、被服、織物、家具、仏壇、菓子、食品など)、商品以外にもサービス(印章の彫刻、布地の絞り染加工、飲食物の提供など)も指定することができます。
他にも違いはいろいろありますが、地理的表示と地域団体商標登録との大きな違いの一つに、品質の保証に関する違いがあります。
地理的表示は、登録・認定を受ける際に提出した生産基準を満たした産品であることを生産業者が(そして事後的に生産者団体、農林水産省が)チェックした上で出荷されるという建前になっています。そうすることで、一定の品質が保証されています。必ずしも最高品質の生産基準が定められているわけではないことは上記のとおりです。地域で育まれた長年の伝統を持つ産品を、同じ生産基準でそのまま未来にも継承していくという狙いがあります。
それに対して、地域団体商標は、生産基準を定めることは登録要件とはなっていません。商品等の品質は、地域団体商標の登録を受けた商標権者(団体)が自主的に管理するという建前になっています。通常の商標登録と同じように、ブランドの価値を下げないように、一定の品質を維持することが商標権者に求められています。
どちらがいいとは一概には言えませんが、このような違いがあることを知ると、商品の名称からそれぞれの生産者や団体の想いや努力が伝わってきて、購入を決定する際の参考になるでしょう。
むすび
地理的表示は本場の欧州では認知度はとても高いようですが、日本では、これまでのところ、一般の人々にまでは浸透しているとは言えない状態です。大量生産ができない産品が対象なので、日本の店頭で見かけることが少ないのもうなずけます。それでも年末年始などの特別な機会には、全国各地からの伝統産品が寄せ集められ、その中に地理的表示産品を見かけることもあるはずです。
地理的表示を国が保護することの意義として、農林水産物や酒類の輸出増大を図るという面があります。地理的表示として日本で登録されたものは、海外でも外国政府との経済連携協定(EPA)などで相互保護の対象となるケースもあります。実際、日本国内でも、欧州の地理的表示であるPDO(原産地呼称保護)、PGI(地理的表示保護)(注:リンク先は欧州委員会の英文サイトです。)として保護された名称やそれらの認証マークが付けられた産品を目にします。同様に日本の地理的表示産品についても、海外に輸出された先で粗悪な模倣品から保護され、日本の伝統的産品が海外の消費者に正しく届くという重要な役割を発揮できることが期待されます。