日本で登録した商標をそのまま外国出願して大丈夫?拒絶を事前に回避するためのポイント

最終更新日 2021-07-06

日本で登録した商標と同じ商標を外国でも使用・登録したいと考えることは多いでしょう。よく考えたネーミングの商標や、愛着のあるマークであればなおさらです。

しかし、日本と同じ商標を外国で出願すると、商標のタイプによってはその国では登録できない商標に該当するとして、登録を拒絶される場合があります。今回は、そういった拒絶を事前に回避するために検討しておくべきポイントを以下の3つの観点から紹介します。

  1. 日本語の文字商標の場合に気をつけること
  2. 3字以上のローマ字で構成され母音を含まない商標の場合に気をつけること
  3. その他の注意を要する商標の例

1.日本語の文字商標の場合に気をつけること

海外に住む日本人のために日本語(漢字、カタカナ、ひらがな)の商標をそのまま使いたい場合や、日本の商品やサービスは品質が高いというイメージを利用したい場合などに日本語の商標が選択されることがあります。

(1)まずは、日本語の文字商標を原則として認めない国があります。

ベトナムでは、日本語の文字のみの商標の出願に対しては、ベトナム人にとって稀な言語であるため商標としての識別力を具備しない(ベトナム知的財産法第74条2(a))という拒絶理由が通知されるようです。

大多数のベトナム人に理解されているほど浸透している日本語文字の商標であれば、そのような証拠を提出して対応することが可能です。

そのような例外的な商標でないのであれば、ベトナムに出願する場合には、英文字を併記した商標で出願するということを検討した方がよいと思います。商標全体に英文字が占める割合が少なすぎても拒絶される可能性がありますので、ある程度目立つ大きさで英文字を表示する必要があります。

ベトナムで日本語の文字のみの商標で出願してそのような拒絶理由が通知された場合には、商標そのものを補正することは通常認められませんので、適切な商標で新たに出願をし直さなければなりません。

(2) 次に注意すべきは、日本語の商標の場合、その訳語の提出を求める国が多いことです。

その訳語を基準にして、各出願国において商標としての識別力の有無(指定商品や指定役務の内容等を直接的に記述するものではないか等)に関する審査や、他人の商標と類似する(商標の有する意味が似ている、つまり観念類似)かどうかに関する審査が行われることです。

日本では、記述的商標に近いような商標であっても、日本語の組み合わせがユニークな場合や、指定商品又は指定役務との関係でその品質等を直接表示するものとして使用されている例が無いなどの理由で登録が認められることがあります。

しかし、日本語の商標を現地語に翻訳した場合(多くの場合まずは英訳することになると思いますが)、指定商品等の品質等を直接表示するような表現になってしまえば、記述的であるとして拒絶されることになります。

訳語を提出する場合には、そのような点に考慮して、拒絶理由を回避できそうな訳語を選択する余地はないかどうか検討してみる必要があります。

2.3字以上のローマ字で構成され母音を含まない商標の場合に気をつけること

日本の商標審査基準では、ローマ字の1字又は2字からなる商標は、原則として「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当するとして登録を拒絶され、ローマ字3字以上ならば基本的に登録可能と考えられます。

しかし、外国の一部の国では、ローマ字3字以上であっても登録できない場合があります。

例えば、タイでは、商標法第7条2(4)により装飾化されていない3字のローマ字からなる商標は拒絶されます。ロシアでも、連邦民法典第1483条(1)により、4字のローマ字からなる商標が音声言語(話し言葉)としての特徴を欠くとして拒絶されている例があります。但し、その国で既に長年使用されており、使用による識別力を獲得している場合には登録が認められる場合があります。

これらの国以外でも同様の取り扱いをする国はあります。

3字以上のローマ字からなる商標で、装飾化されておらず、母音を含まないため一つの単語として連続して発音できない商標を外国で出願しようとする場合は、出願国では登録できない商標に該当しないかについて事前に確認しておいた方がよいでしょう。

3.その他の注意を要する商標の例

国名や地名を含む商標、会社の正式名称のみからなる商標、姓のみからなる商標等も出願国によっては登録が困難になる場合があるので、出願前に問題はないか確認しておいた方がよいでしょう。

また、商標中に含まれる図形などがその国の道徳上又は公共政策上好ましくない(公序良俗違反)と判断されるケースもあります。

商標以外にも、指定商品や指定役務にその国にとって好ましくないもの(例えば、酒類、たばこ、宗教上禁止されている食品やそれらの小売りサービス他)が含まれている場合には、その出願が拒絶されるケースもあります。

日本での商標登録や商標出願を基礎にしてマドプロ出願を行う時には、指定国は願書にチェックするだけで良いので簡単です。しかし、上記のような拒絶理由が発せられる可能性もあるので、出願前に、各出願国について、商標や指定商品・指定役務に問題はないか弁理士などの専門家に相談して確認しておくことは重要だと思います。

ご自身で調べる場合は、マドプロの加盟国であれば、WIPOのホームページにあるMadrid Monitorを利用すると、公開されている拒絶理由の内容を吟味することで、ある程度は参考にできると思います。

日本と同じ商標にこだわりすぎると、上記のような落とし穴にはまってしまうおそれがあります。あらゆる国での審査結果を正確に予測することは困難ですが、場合によっては、マドプロ出願ルートを使って日本と同じ商標を登録することはあきらめて、国ごとに商標を変更して各国出願ルートを使うのが賢明です。