農産物のブランド化に最適な商品表示とは|具体例で解説

最終更新日 2021-07-05

果物や野菜などの農産物を生産するには多大な労力とコストがかかります。数ある産品の中から自分の商品のリピーターを増やすにはどうしたらよいでしょうか?その答えのカギは「ブランド化」にあります。

ブランド化とは、「他の商品と差別化して消費者に継続的に選ばれるための長期的な取り組み」です。この記事では、農産物のブランド化にとって外せない重要な要素である商品の名称やロゴなどの商品表示にフォーカスして解説します。

この記事を読めば、「農産物のブランド化のためにはどんな名称やロゴが最適なのか」、「選んだ名称やロゴをブランドとして使う上で5つのポイント」がわかります。

この記事の内容

  1. スーパーでの青果売場の陳列に見る商品の表示
  2. どのような商品の表示が最適なのか?
  3. 選んだ名称やロゴをブランドとして使う上で5つのポイント

1.スーパーでの青果売場の陳列に見る商品の表示

スーパーマーケットの青果売場に陳列されている商品を見ると、最も重要な価格の表示のほかに、次のようなタイプの表示がされていることがわかります。

種別具体例
(a)商品の一般名称 じゃがいも、レタス、玉ねぎなど
(b)産地名愛知県産、北海道産、淡路島産、国産など
(c)品種名とちおとめ、とよのか、シャインマスカット、キタアカリ、メークイン、ネバリスターなど
(d)生産者名生産者の個人名、農業法人や生産者団体名など
(e)商標(商品の愛称及びロゴマークなど)あまおう、甘熟王、トマロッソ、優糖星、俺のぬくもり、Zespriと図形など
(f)団体に関連する表示(地域団体商標や地理的表示(GI)など)蒲郡みかん、祖父江ぎんなん、三ヶ日みかん、市田柿など
(g)認証マーク自治体や生産者団体などの認証マーク、地域団体商標マーク、地理的表示マークなど

価格で勝負のお買い得品の場合は、商品の一般名称だけが表示されているものが多いことに気づきます。

産地が購入の決め手になりそうな商品の場合は、産地名が強調されています。

顔写真付きで生産者の個人名が表示されている野菜なども最近よく見かけますが、スーパーではJAなどの生産者団体名の多さがやはり目立ちます。

人気のあるフルーツや野菜であればその品種名であったり、商品の愛称が表示されていますね。

品種名には、品種登録された品種名もあれば、品種登録されていない(又は品種登録の期限が切れた)一般品種のものがあります。

参考として【ブログ記事】シャインマスカット 人目をひく品種名のメリットとデメリットを読めば、親しみやすい品種名をつけることのメリットとデメリットがわかります。

愛称の例として (e) にあげたものは、全て商標登録されています。もちろん商標登録されていない愛称もたくさんあります。余談ですが、イチゴの「あまおう」は、品種名「福岡S6号」に代わる商品の愛称として商標登録されたものです。

商品の包装フィルムや箱などに各種認証マークが付いた商品もあります。これらは、第三者の認証を受けているので、きちんと品質管理が行われているという印象を与えますね。

認証マークについては、【ブログ】地元を元気にするブランド認証制度|成功のための3つの条件をぜひご参照ください。

2.どのような商品の表示が最適なのか?

実際に商品を購入した人は、その商品に満足したら、次もそれを買おうとします。その時、以前に購入した商品の名前やマークを覚えていると、それを目印にして購入できます。

目印になることができる表示というのは、言い換えれば、誰が商品の提供元(ソース)であるかを特定できる表示のことです。

(1)誰が商品の提供元(ソース)であるかを特定できる表示

上記1の例示の中では、(a) ~ (c) の表示(商品の一般名称、産地名、品種名)からは、商品の提供元を特定できません。ですから、これだけの表示では、自分の商品のリピーター、つまりファンを作ることはできません。

(d) 、(e) の表示(生産者名、商標)は商品の提供元を特定しています。これらはリピーターになってもらうための目印になります。

(f) のような団体や地域全体を特定する表示の場合や、(g) のような自治体などの認証マークの場合は、商品の個々の提供元を特定するものではないので、これだけでは、自分の商品のリピーターを作ることは困難です。

(2)どんな目印が適しているか

リピーターになってもらうための目印になれるのは、(d) 、(e) と述べました。(d) の生産者名は個人の氏名や登記された会社名称そのものですので、既に決まったものがあり選択の余地はありません。これをブランドにするというのも一つの選択肢ではありますが、人の名前や会社の正式名称というのは覚えにくいと思いませんか?そこで、上記 (e) の商品の愛称やロゴマークなどの商標について掘り下げてみます。

商標には、商品の愛称を表す文字列や、図形を使ったロゴマークなどが一般的です。これには、生産者や事業者の愛称・ニックネームも含まれます。これらはワンポイントマークとして商品の購入者に記憶されやすいものです。愛称を使った口コミでの拡散に利用されるなどが期待できます。

もちろん、愛称やマークを考えればすぐに効果がでるかといえば、そう簡単にはいかないことの方が多いでしょう。目印が購入者の間に浸透するまでには相当の期間が必要になるのは、他の有名企業の商標の例を見れば明らかです。商売において継続的に使用することで、商標に信頼が蓄積されていきます。

それでは、愛称やロゴマークはどういうものが適切か、という点について考えてみます。適切な目印とは、簡単に言うと次の3要素を満たすものです。

  1. 長く継続的に使用できるもの
  2. 購入者にとってわかりやすく親しみやすいもの
  3. 商標登録できるもの

1つずつ解説します。

①長く継続的に使用できるもの

目印はコロコロ変えるものではありません。購入者にとって商品選択の際の目印となるものなので、常に同じものでなければ覚えてもらえません。この先何十年も使っていくものなので、一時期の流行に左右されるようなネーミングやデザインでは陳腐化しやすいため避けるべきです。他人の名称やデザインによく似たものは、法律上の問題が生じて使用できなくなるリスクがあるため、これも避けなければなりません。

②購入者にとってわかりやすく親しみやすいもの

愛称なので生産者の思い入れがある名前にすればよいのですが、次の点も考慮にいれましょう。

  • 生産者や商品を特定してもらいやすいように、読みやすい名前、発音しやすい名前にする。
  • 他とは違う商品の特徴がそれとなく購入者に伝わるような名前にする。商品の特徴を連想しやすい名前だと記憶に残りやすいのですが、商品の特徴をそのまま表現したものは③で述べるように商標登録が難しくなります。いくつかのネーミングの候補を作って、商標調査をした上で決定するのが、理想的な決め方です。

商標のネーミングに関する注意事項について、【ブログ記事】ネーミング案の絞り込み~外国の視点を含む考慮すべき5つのポイントで解説しています。 

③商標登録できるもの

愛称やロゴマークを長く継続的に使用するには、自分がそれを使用することで他人の権利を害さない、自分に使用する権利がある、といった法律上の根拠を獲得することが重要です。

商品やサービスに使用する愛称やロゴマークといった目印となるものを、法律用語で「商標」と呼びます。商標を特許庁に登録することで、商標を独占的に使用する権利である商標権を取得することができます。正しく使用している限りは他人の権利を害さないという安心を得ることができます。

商標を登録するためには、登録出願を行い、厳しい審査をパスする必要があります。審査においては、出願した商標が他人の商品やサービスと区別するための目印として機能するかどうか(言い換えると、識別力を具備しているかどうか)、既に登録されている商標と紛らわしいほど似ていないかどうか、などの観点から審査されます。

商標の識別力とは何かについて、【ブログ記事】商標の識別力とは何を解説する力なのか解説しますで詳しく解説していますので、参考にしてください。

少し細かくなってしまいますが、特許庁のホームページに、「出願しても登録にならない商標」として例を挙げて説明されていますので、目を通しておきましょう。

3.選んだ名称やロゴをブランドとして使う上で5つのポイント

(1)商標登録を取得する

商標調査を行って最終的に選定した名称やロゴについては、商標登録を取得しましょう。商標登録のための出願では、商標を使用する商品やサービスの分類を指定する必要があります。自分が今後使用する予定のある商品やサービスの範囲をカバーするように、しっかりと戦略を立てて出願しましょう。商標登録の専門家である弁理士のアドバイスを受ければ安心です。

商標登録出願を行ってから商標登録が確定するまでには、通常、少なくとも半年から1年程度はかかります。審査の結果、登録できないとなれば、別の商標を考えなければなりません。商標登録する前に使用を商標の使用を開始することは、他人の商標権を侵害するなど、大きなリスクを伴う可能性があります。

商標登録までには1年程度の期間を要することを踏まえて、ブランド化の計画を練りましょう。登録した商標は10年間有効となります。更新申請することにより半永久的に維持できますので、更新申請を忘れないように期限の管理をしましょう。取り扱う商品やサービスが増えて既存の登録商標の範囲に収まらなくなった場合には、新たな商標登録出願をして権利を確保しておく必要があります。

(2)商品の差別化ポイントによっては地域全体としてブランド化を図る

商品の差別化できる特徴が特定の地域に由来するものである場合には、近隣の同業者と協力して、あるいは、自治体や生産者団体が主導して、地域の特産品として共同でブランド化することが考えられます。

団体としてブランドを立ち上げることで、以下のようなメリットが得られます。

  • 一定の品質基準を課すことで、品質の安定した地域の特産品としてアピールできる
  • 生産者が増えることで、需要の急激な増加に対応しやすくなる
  • 個人では負担することが困難な、ブランド管理・運用に関する様々なコストを分散できる

地域の団体としてのブランドを保護する方法は、以下のような形態があります。

  • 通常の商標として登録する
  • 団体商標として登録する
  • 地域団体商標として登録する
  • 農林水産物等の地理的表示(GI)として登録する
  • 外国に輸出する場合は外国でも商標登録する

団体商標、地域団体商標、地理的表示の登録については、団体その他さまざまな事項に関して満たすべき法律上の要件があります。団体商標、地域団体商標については弁理士、地理的表示については行政書士等の専門家の助言を受けながら検討、手続きを進めてください。

(3)商品の品質基準を策定する

これは必ずしなければならないものではありません。一定の品質基準を満たす商品についてのみブランドとしての商標を使用することで、商品の品質についてのバラツキが最小限となります。これによって、消費者からの評価を得られやすくなります。

地理的表示(GI)や各種認証マークが付けられている商品は、品質について第三者による厳格なチェックを受けていることが推察できます。そのため消費者にとっては安心感が得られます。

これと同じようなことを独自に行うのです。自分で自分の品質をチェックするのは難しいことですが、一定の品質基準に満たない商品についてはその商標を付けないという姿勢を徹底すれば、そういった「品質へのこだわり」が消費者から評価されることは間違いないと思います。

品質へのこだわりを、自分のホームページや店頭、または商品のパンフレットなどに宣伝コピーとして記載して公表することも、次のポイントとも関連しますが、有効な方法です。

(4)差別化できる商品の特徴が伝わる販売促進活動を行う

商標の機能の一つに「宣伝広告機能」というものがあります。簡単に言うと、商品に付けられる商標を見れば、商品の品質や特徴などが消費者に瞬時に伝わり、購買意欲を起こさせるという機能です。バナナ好きの方なら、「甘熟王」と「スウィーティオ」とでは明確な違いを認識できるかもしれません。

この機能を上手に利用すれば、商品の品質や特徴などで他のものから区別できる優位性を、商標によって瞬時に伝えることができます。

そのためには、同種の他の商品と比べた場合の優位性が明らかになるような宣伝コピーを作り、キャンペーンなどで集中的、継続的に宣伝広告し、消費者に認知されることが大切です。そこでも商標が使われることで、数行に及ぶかもしれない宣伝コピーの内容が、簡潔な商標(愛称やロゴマーク)に一体化して記憶されることが期待できます。

(5)商標を改変しない、普通名称化させない

最後のポイントは、登録した商標を適切に使用することです。登録した商標を、指定した商品または役務の範囲内で使用しなければなりません。

登録した商標は登録した形を改変せずに使用することが原則です。文字の書体を大きく変更することや、新たな要素を追加して使用すれば、消費者に商標が浸透しにくくなるばかりではなく、登録商標の不正使用として登録が取り消されるリスクもあります。

普通名称化にも注意が必要です。商標が特定の提供元を示すように使用されずに、商品の普通名称であるかのように使用されている状態が社会に定着してしまうと、特定の提供元を表す標識としてではなく、商品そのものを表す一般的な名称として認識されるようになります。その結果、登録商標の権利者でも権利を主張できなくなるおそれがあります。

例えば、「サニーレタス」は今ではレタスの一種を表す一般的な名称として認識されていますが、もともとは登録商標でした。「巨峰」も今ではブドウの一種を表す一般的な名称として認識されていますが、これも登録商標でした。

登録商標の普通名称化を防止するためには、自分が使用する場合には、登録商標であることが第三者にわかるような表示を付ける(「『〇〇』はABC社の登録商標です。」という表示や、®のシンボルを付ける)、パンフレットなどに記載するときには登録商標の部分が目立つように「」などで囲んだり、バナナの商標の場合は「〇〇バナナ」のように普通名称と併用するなど、十分注意しましょう。また他人が普通名称のような使い方をしているのを発見した場合には直ちに警告するなどして、その状態を放置しないことが大切です。

まとめ

  • 農産物のブランド化は、一部の人気フルーツや野菜では活発である。それ以外でもブランド化に取り組んでいる例がマスコミやインターネット上で紹介されており、広がりを見せている。
  • 他の商品と差別化を図り、リピーターを増やしていくためには、自分の商品を覚えてもらう目印を作り、それを権利化(商標登録)することが必要である。
  • 個々の事業者としてブランドを立ち上げることにこだわらず、地域性のある産品であれば、地域の団体や自治体が主体となってブランドを立ち上げていくことのメリットに注目すべきである。
  • 地域の特産物として、日本全体だけでなく海外にも広めていくためには、適切な商標登録の取得といった法律上の手当が必要である。登録手続には年単位の期間を要するため、ブランド展開の早い段階で済ませておく必要がある。取得した登録商標は適切に使用し、更新等の維持・管理を怠らない。
  • 商標を登録しただけではブランド化は達成されない。商品の差別化への企業努力の継続と商標(ブランド)を介した顧客とのコミュニケーションの充実化を図る。
  • ブランド化そのものは、生産する産品の品質、他とは異なる特徴、ターゲットとなる顧客層、生産可能数量、販売方法、販売ルート、販売地域、ステークホルダー、その他の商品のマーケティングに関連する様々な点についてじっくりと考え、行動に移す必要があります。