最終更新日 2022-06-14
「そろそろ海外市場に進出しよう!自社のブランドを海外でも商標登録できるかどうか調べたい」そんな時には外国でも商標調査を行いましょう。「外国商標調査は費用が高いのでは?」「本当に必要な調査結果が得られるか不安………」
この記事ではそんな心配を解消します。外国商標調査を自分で行うために知っておくべき基本と、失敗しない調査の進め方のコツを紹介します。外国商標調査を専門に行っている会社に調査を依頼する時にも役立ちます。
この記事の内容
1.外国商標調査はどんなときに行うもの?
外国商標調査は、例えば次のような場合に行われます。
- 近い将来、海外で商標を使用する予定があるとき(海外市場に参入するとき、新製品や新規サービスを投入するとき)に商標を使用できるかどうかを調べたいとき
- 海外で商標登録出願をする前に、その国で商標登録できる可能性を調べたいとき
- 海外で商標をめぐるトラブルに巻き込まれてしまい、その商標の登録の有無や登録内容を調べたいとき
- 他社の外国における商標登録取得状況を知りたいとき
- 海外での商標登録異議申立や拒絶理由通知対応などの手続きで利用するため、商標の拒絶事例や併存登録例を探したいとき
- ある商標が海外の特定の国で実際に使用されているかを調べたいとき
これらの中でも、最もよく行われるのは上の2つの商標の使用・登録可能性に関する調査でしょう。3つ目以下は、既に海外で商標を使用している方や商標登録をしている方が、具体的な必要性に応じて行う調査です。
2.外国商標調査で何がわかる?
調査の目的にもよりますが、外国商標調査では主に以下について調べることができます。
- 特定の商標の使用可能性(使用の妨げとなる同一又は類似商標の有無)
- 特定の商標の登録可能性(識別力の有無、登録の妨げとなる同一又は類似商標の有無)
- 特定の商標の所有者や出願・登録に関する書誌的情報(出願日、登録日、指定商品役務、更新日、他)
- 特定の商標の登録が更新され現在も有効に存続するかどうかの調査(ステータス・サーチ)
- 特定の商標の審査・審判や名称変更や権利移転などの登録情報などの経過情報と経過書類の入手(ファイル・ヒストリー・サーチ)
- 特定の商標の使用状況の調査(インユース・サーチ)
- 特定の所有者が所有する商標の一覧(オーナーネーム・サーチ)
3.外国標調査の方法と気になる費用は?
外国商標調査は自分自身で各国の商標データベース等にアクセスして行うことも、調査会社や特許事務所などの調査の専門家に依頼して行うこともできます。
外国商標調査は基本的には国毎に行う必要があります。対象となる国数が増えれば、それだけ手間と費用がかかります。
(1)自分で調査する
- WIPOや各国が提供する無料商標データベースにアクセスして自分で検索する。利用可能なデータベースはGoogleなどで簡単に検索できます。一部を6.結びのことろで紹介しています。
- 有料商標データベースと契約し、自分で検索する
自分で調査する場合には、データベースの使用方法を理解する必要や、英語や現地の言語を理解している必要があります。また各国の商標制度の知識も必要になります。同一商標の有無の調査であれば比較的簡単に行うことができます。
但し、同一商標が見つかった場合でも、その指定商品・役務が類似するのかどうかといったことや、その商標の登録が現在も有効に存続するのかといったことなど、様々な観点から判断する必要があることに注意してください。
(2)調査会社や特許事務所などの専門家に調査を依頼する
- 国内外の外国商標調査専門会社に直接調査を依頼する
- 国内外の特許事務所に依頼する(特許事務所から調査会社に依頼を出したり、特許事務所が契約する有料商業商標データベースを使って調査する)
自分で調査する場合と比べて多額の費用が発生しますが、調査目的に適した調査方法を提案してくれることもあり、目的に応じた結果が得られます。
通常、英語で書かれた商標調査報告書が作成され、調査で発見された商標の情報が現地語で書かれていた場合でも、重要な部分については英訳を入手できます。それらの調査報告をまとめた日本語の報告書を入手できます。不明点があれば問い合わせにも対応してもらえます。外国商標出願もその事務所を通じて行えば、調査結果を考慮した出願の提案や中間処理の対応なども期待できます。
4.外国商標調査の限界とは?
外国商標調査を行う場合は、次のような限界があることをあらかじめ理解しておく必要があります。
(1)調査実施日とデータベースに商標情報が更新される日との間にズレがある。
そのため、調査実施日の情報が本当の最新の情報とはなりません。最新の商標登録出願が行われても、その内容がデータベースに掲載されるまである程度の日数がかかります。国によって異なりますが、そのズレは数日から数か月に及びます。場合によっては、調査実施の数か月後(例えば、優先権主張出願の場合を考慮して6か月以上経過後)に再度、フォローアップ調査をすると精度がアップします。
(2)データベースに蓄積された商標情報そのものに誤記や漏れなどがある可能性がある。
データベースへの入力は人の手を介して行われるので、人為的ミスが生じる可能性があります。国によっても、ミスの多い国、少ない国とあるようです。
(3)商標が登録できるかどうかは各国の審査官が判断する。
商標調査報告書では、調査担当者が、商標が類似するかどうか、商品役務が類似するかどうかを判断して見解を記載します。その判断が実際に審査を行う各国の審査官の判断とは必ずしも一致しないことに留意する必要があります。
(4)各国で得られる商標の情報の範囲に違いがある。
そのため、国によって得られる情報の範囲に差がでます。ある国では経過情報まで細部にわたって情報を入手できても、別の国では出願中の商標については入手できる情報は限られている場合などがあります。複数国同時に商標調査を行っても、必ずしも同じレベルの調査結果が得られるわけではありません。
5.外国商標調査を上手に進めるコツ
商標調査を上手に進めるコツは、最低でも、調査の目的、対象商標、調査範囲、納期、予算を明らかにしておくことです。そして調査会社や特許事務所に調査を依頼するときには、それらを明確に文書で指示できるように準備しておきます。それぞれのポイントについて解説します。
(1)調査の目的
出願前の商標調査であれば、幾つかの候補から出願商標を絞り込むために同一又はほぼ同一商標の有無がわかればよいのか、紛らわしく類似する商標の有無を調査して登録の可能性が知りたいのか、できるだけ詳しく調査の目的を把握する必要があります。
(2)調査対象の特定
調査対象の商標を特定します。必要であれば、色付きなのか白黒なのかも含めて、実際に使用したいと考えている商標のバリエーションをリストアップします。
どのように発音されるのか調査担当者が迷ってしまいそうな場合には、文字部分がどのように発音されるかがわかるように、発音記号などを使って表現します。
文字と図形の組み合わせの商標である場合は、それぞれの構成要素について調査が必要になる可能性があります。特定された調査対象とそのバリエーションに応じて、調査専門家は、1つの調査でよいのか、複数の調査が必要なのか判断して、調査対象商標を選定、提案してくれます。
調査対象の商標の由来や意味も明らかにしておきます。意味の無い造語であればその旨を書いておきます。
(3)調査の範囲を決める
商標を使用する商品・役務のリストと区分、調査する国・地域のリスト、調査範囲として出願・登録商標に限定するか、それとも可能であれば未登録使用商標まで含めるかなど、を決定します。
未登録使用商標が問題になる国は使用主義をとる国ですので、ある程度限られています。調査の範囲については、一応の希望として伝えるようにして、調査専門家からの提案があればそれを検討して最終的に決定するのがよいと思います。
(4)調査の納期
商標調査では、通常、依頼内容の把握、調査プランの策定、調査の実施、調査結果のレビュー、調査報告書の作成(英語)、日本語での調査報告書の作成、といったプロセスをとります。
至急の調査であれば翌日か数日以内、通常の調査であれば1~2週間程度又はそれ以上かかります。納期が短いほど高い料金が設定され、納期が長いほど費用が下がる料金プランもありますので、あらかじめ調査の料金表を入手しておくとよいでしょう。
外国商標調査では数週間から場合によっては数か月かかる場合もあるため、調査後の商標の出願、使用の予定を総合的に考慮して、適切な納期を設定することが求められます。
(5)調査の予算
商標調査を外注(専門家に依頼)する場合は、国数が増えるほど費用が増加します。また、1国(1地域)でも数十万円の費用が必要になる場合もあります。あらかじめ商標調査に当てられる予算を決めた上で、その範囲内に収まるように依頼する必要があります。
調査の指示を出す前に、費用の見積もりを取っておくことが肝心です。単に見積りを取ればよいのではなく、その調査でどこまでの範囲の調査が行われ、どれくらいの納期で入手できるのかを確認しておきましょう。
結び
以上、外国商標調査を行う、又は依頼する際の基本となる事項を紹介しました。
外国商標調査が可能な無料データベースを普段から使って慣れておくと、調査スキルも上がってきます。WIPOのGlobal Brand DatabaseやMadrid Monitor、米国商標調査データベースのTESS、欧州連合商標データベースのeSearch plus、中国商標調査データベースの中国商標網、香港の商標データベース、その他、たくさんのデータベースが利用可能です。
調査を外部に依頼する時には、上記のポイントを意識して正確に伝えられるように、調査依頼書のテンプレートを用意しておくのも有効です。
実際の調査では、米国商標調査、欧州連合の商標調査などは、他の国や地域とは異なる特徴があり、それぞれに注意すべき点、興味深い点があります。それについては、また別の機会に紹介します。