最終更新日 2022-04-20
外国商標調査で現地の商標弁護士によって作成される商標調査報告書では、それぞれの国・地域の商標制度の特徴が出ています。例えば、使用主義国、無審査主義国、登録・審査主義国といった商標制度上の違いから、受け取る調査報告書の内容にも違いがあります。
それらを理解した上で調査結果を読み解くことが重要になってきます。
この記事では、商標制度の特徴を大きく3つに分けて、調査報告書に現れるそれぞれのタイプ毎の特徴を紹介します。これらを知っていれば、調査結果をより正確に読み解く上での助けとなるでしょう。
3つのタイプとして、使用主義国の「米国タイプ」、無審査主義国の「EUタイプ」、そしてその他大多数の登録主義で審査主義国の「基本タイプ」に分けます。尚、この記事において外国商標調査とは、出願前に行う商標の登録可能性に関する調査を指します。
記事の内容
1.3つのタイプに共通する事柄
3つのタイプに共通する事項として、通常、外国商標調査報告書には次のような内容が含まれます。
- 調査対象商標、調査範囲の特定、検索した商標データベースの種類とその収録期間、その他、見解を作成するために参照した情報、その他の特記事項
- 調査対象商標の識別力の有無に関する見解
- 調査対象商標の登録可能性に関する見解
- 調査対象商標の使用可能性に関する見解
- 調査で発見された出願・登録商標の中で、特に注意を要する商標の書誌的情報及び類否に関する見解
- 今後の進め方に関する提案
2.米国タイプの特徴
米国タイプとは、使用主義国を採用する米国のことです。米国の場合、米国特許商標庁に出願又は登録されている商標を調査するだけでは不十分であり、実際に使用されている未登録使用商標も考慮する必要があります。そのため、他の登録主義国と比較して、未登録使用商標に関する調査が含まれることが大きな特徴の一つです。
未登録使用商標の調査は行わないという選択もありますが、実際に使用する予定があるなら、その調査も含めなければ商標弁護士による最終的な見解が得られません。
通常、米国で商標調査を行おうとすると、未登録使用商標の調査も含めた「フルサーチ」を勧められますので、それを利用します。
このような米国タイプの商標調査報告書の特徴には次のようなものが挙げられます。
分厚い検索結果のリストが提供される。
連邦商標登録出願・登録に関する検索結果だけでなく、州登録商標の検索結果、未登録使用商標に関する検索結果、会社名称やドメインネームに関する検索結果などが含まれるため、資料が分厚くなります。
調査報告書の主要部であるオピニオンレターにおいて、弁護士等による詳細な見解が数ページにわたって記載される。
通常、結論は始めに書かれますが、商標が使える、使えないという簡単な結論に至る場合は少なく、多くの場合は、留意すべきリスクや、リスクを左右する要素などに関する説明が添えられるため長文となります。
文書で示された弁護士の見解は、後に商標をめぐる法的係争が生じた場合には防御のための重要な資料になる可能性があります。見解を正しく理解して適切な対応をとることが求められます。
オピニオンレターでは専門用語が頻繁に使われるため、予備知識が必要
混同のおそれ、主登録簿と補助登録簿の違い、使用と登録、公正な使用などといった専門的な概念を使って説明されるため、用語の解説書を手元に置いておくことや、不明点について気軽に質問できる関係を構築しておきましょう。
3.EUタイプの特徴
EUタイプとは、ここでは、EU(欧州連合)とその加盟国のことをいいます。これらの国のほとんどが、他人の先行商標と類似するかどうかという相対的拒絶理由に関する審査を行わない、いわゆる無審査主義を採用しています。
EU全域に有効となる欧州連合商標(EUTM)の登録を取得しようとする場合でも、自分の出願よりも前に、他人が類似する商標を出願・登録していれば、異議申立をかけられた場合には登録を拒絶される場合があります。そのような他人の商標には、EUTMだけでなく、EU加盟国で有効な国内商標、EU又はその加盟国を指定国に含むマドプロの商標が含まれます。
したがって、EUTMの登録を取得するために行う出願前調査であっても、EUTM、EU加盟国の国内商標、マドプロ経由の商標(EU加盟国を指定国に含むもの、EUを指定国に含むもの)の調査が必要となります。反対に、例えばフランスのみで商標登録を取得するために行う出願前調査であっても、フランス国内商標に加えて、EUTMとマドプロ経由の商標(フランスを指定国に含むもの、EUを指定国に含むもの)の調査が必要です。
EUタイプの商標調査報告書の特徴には次のようなものが挙げられます。
商標調査報告書には、調査対象商標が登録可能かどうかについて、イエスかノーという結論を示しにくい。
EU域内での商標調査の場合、調査すべき範囲が国内商標、EUTM、それらのマドプロ経由というように多岐にわたります。これらの範囲すべてにおいて類似する商標の調査を行う場合、大変な労力となり、その分、調査費用、調査日数も増えます。予算の関係上、同一商標の有無を調べるにとどめておくケースも多く、同一商標調査結果のみでは、商標弁護士による最終的な判断を示すことができません。
また、類似商標調査をした場合でも、異議申立がなされなければ相対的拒絶理由は審査されず、異議申立がなされた場合でもクーリングオフ期間中に和解で決着するケースが多いため、どれだけの差異があれば非類似の商標となるのかを判断する材料が足りないことも考えられます。異議申立をするかどうかは、純粋に商標同士が近似するからという理由よりも、ビジネス戦略上の必要から決断することも多く、その予測は困難です。
このような事情から明確な結論が出されにくい傾向はありますが、リスクとなる可能性のある商標の存在を知ることはできます。したがって、調査対象商標を採択するかどうかの有力な判断材料になります。
調査で発見された商標について使用猶予期間の5年間を考慮したコメントが多い。
EUTM制度の下では、商標登録後、継続して5年間不使用の場合は請求により登録が取り消される場合があります。言い換えれば、登録後5年経過するまでに使用を開始すれば取消を免れます。EU加盟国でも多くが5年間の使用猶予期間を設けています。
このため、類似する商標として発見された商標が登録済みの場合は、調査報告書内で登録後5年経過したかどうかに言及される場合が多いようです。5年経過していれば使用をしている必要があるため、実際の使用状況をインターネットなどで調べてみて、出願したい商標の指定商品・役務と類似するものが使用されていなければ、不使用取消請求を行うことを前提に出願をすることが選択肢に入ってきます。
調査で発見された商標の所有者が異議申立を行う可能性についてコメントがなされる。
異議申立を行うかどうかは、その商標の所有者のブランド保護に対する考え方によるところが大きいと言えます。ブランド保護に積極的かどうかは、過去に異議申立を行ったことがあるかどうかを調べることや、ブランド保護に積極的な会社として知られているかどうかといったことがヒントになります。調査を行う現地の商標弁護士が異議申立の可能性についてコメントした場合に、慎重に検討する必要があるでしょう。
4.基本タイプの特徴
米国とEU以外の多くの登録主義かつ審査主義国にも、それぞれ独自の登録要件があり、国毎に違いは存在します。また、電子化が進んでいる国もあれば、紙での手続が主体の国もあり、商標調査の検索に使用できるデータベースの有無やその収録内容の範囲も、商標調査の精度に影響します。
このような国々での商標調査報告書の特徴には次のようなものが挙げられます。
その国独自の不登録事由に該当するかどうかがわかる。
調査してみなければ気が付かなかったその国独自の不登録事由を知ることができる場合があります。調査無しで出願していれば、不登録事由に該当して拒絶されてしまうところ、調査をしたことにより、出願商標を不登録事由に該当しないように変更することで登録を取得できるという場合もあります。
調査対象商品・役務と類似するとみなされる他区分の商品役務も調査するかどうかを選択できる。
他区分の商品・役務を調査範囲に含めることで調査費用が増加する場合があるため、クロスサーチをするかどうかについて確認を求められる場合があります。実際の審査においてもそのようなクロスサーチが行われるのであれば、追加費用をかけて調査をするべきです。
現地の言語がわからない場合でも英語などに翻訳され重要な情報を知ることができる。
調査結果を左右する重要な商標が発見された場合には、調査報告書内で、又は添付資料として、現地語で書かれた商標公報などが英語に訳され、その概要を知ることができます。
現地の商標制度や、審査基準・運用をこちらも理解しているという前提で、丁寧な説明を省いて商標弁護士の判断や見解が示されることがある。
あまり知られていない国で商標調査をする場合には、調査を依頼する側に基本的な知識がなく、調査報告書の内容を十分に理解できないことがあります。不明点があれば問い合わせをしなければ重要な情報を逸するリスクがあります。
現地の商標弁護士の質にもよりますが、日頃のコミュニケーションから、わかりやすく説明できる商標弁護士を見つけておくか、信頼のおける人から推薦してもらい担当する商標弁護士を選定するというのもポイントです。
5.むすび
商標調査報告書は、その国の制度の特徴を良く理解して、記載された内容を正しく受け止め、次の行動に活かすことが重要です。その国で商標を登録するかどうかという重要な意思決定の基礎となるものなので、調査結果やその内容に不明な点があれば、必ず説明を求めて、疑問点をつぶしていきましょう。