最終更新日 2021-12-06
外国でも商標登録を取得する必要性を感じていらっしゃる経営者の方が知っておくべきポイントを4つ紹介します。この記事を読めば、日本での商標登録手続きとの違いがわかり、手続きを行う代理人からの説明が理解しやすくなります。そうなれば、実際の手続きではより主体的に代理人に対して指示を出すことや、代理人から有効な提案を引き出すこともできるようになります。
4つのポイントとは、
です。それでは一つずつ解説していきます。
1.商標の登録の効力が及ぶのは登録した国内だけ
例えば日本で商標を登録すれば、日本国内においてのみ商標登録の効力が及びます。後から他人が紛らわしい商標を使用し始めたときなどに使用の中止を請求できるのは、日本国内に限られます。これが原則であり、属地主義の原則といいます。
中国やアメリカであなたの商標とよく似た商標が同業他社によって使われた場合でも、中国やアメリカでも商標を登録していなければ、使用の中止を請求することはできません。
ただし、あなたの商標が世界的にも有名だった場合には、例外的に保護が認められる場合はあります。逆から見れば、世界的にも有名な商標がたまたま日本国内で商標登録されていないからといって、それと同じ商標を使用すると、使用の中止を要求されることもあり得るということです。
したがって、外国で商標を使って商品やサービスを提供しようとする場合には、商標を使用する国ごとに商標登録を取得する必要がでてくるのです。どの国に商標登録のための出願を行うかは、事業計画、予算配分、模倣品が発生するリスクのある国、外国商標調査結果に基づく登録の可能性など、様々な観点から決定してくことになります。
外国での商標登録が必要な理由について、【ブログ】外国で商標を登録すべき2つの理由で解説していますので、ぜひご参考にしてください。
2.出願した国ごとの審査にパスする必要がある
(1)出願から登録までの主なステージの内容
商標が登録されるためには、いくつかのステージをパスする必要があります。多くの国で、商標が登録されるまでに、次のようなステージを通過します。
出願 ⇒ 方式審査 ⇒ 実体審査 ⇒ 公告 ⇒ 登録
国によって順番が異なっていたり、一部のステージが省略されていたりします。
出願のステージでは、商標登録に必要な事項を記載した願書、添付資料、必要な料金の支払いなどを行います。
方式審査のステージでは、所定の書類等が提出され料金が支払われているかをチェックします。また指定商品役務が適切に記載されていて適切な商品役務の区分に分類されているかについてこの段階でチェックする国もあります。
実体審査のステージでは、商標が識別力を備えているかなどの登録要件の審査(絶対的拒絶理由の審査)と、既に登録されている他人の商標に類似しないかなどの審査(相対的拒絶理由の審査)が行われます。
商標の識別力とは何かについては、【ブログ】商標の識別力とは?具体例で解説で説明していますので、ぜひご参考にしてください。
公告のステージでは、出願された商標を一般に公表し、一定期間内(30日、2ヶ月、3カ月、6カ月など期間は国によって様々です)に、それを登録することに異議がある第三者からの申立てを受け付けるというものです。自分が所有している登録商標に類似する商標が出願された場合に、その登録を阻止するために異議申立てが行われます。
登録のステージでは、登録料を納付し(出願時に納付する国もあります)、登録証が発行され、登録原簿に登録の事実が記載されます。
(2)国によって審査の内容や公告のタイミングが異なる
絶対的拒絶理由の審査と相対的拒絶理由の審査はどちらも行われる国が多数を占めます(日本、中国、米国を含む)。しかし、欧州諸国の多くでは絶対的拒絶理由の審査のみが行われ、相対的拒絶理由の審査については、既に商標登録している他人からの異議申立がなされた場合にのみ行われます。
欧州諸国の多くでは、第三者からの異議申立がなされなければ既存の他人の商標と類似するかどうかの審査が行われることなく登録になってしまうのです。次の3のところでも触れますが、登録後に実際に欧州で商標の使用を開始してから、類似する他人の商標登録の存在に気づくということも起こり得るのです。
公告のタイミングは、実体審査を経た後とする国がほとんどですが、南米の国では、実体審査の前に公告を行い、異議申立を受け付けるとする国が多くあります。また、出願から登録までの期間をできるだけ短くするために、日本のように実体審査が終わればまずは登録をした、その後に公告し異議申立てを受け付けるという国もあります。
出願しようとする国がどのような手続きフローをとるかを知っておくことは、次の点で重要です。
- 登録までにどの程度の期間がかかるか予測しやすくなる。
- どの段階で費用が発生するか予測しやすくなる。
- 登録の見込みが高いかどうかを判断できる時期が明確になる。
- 第三者から異議申立てがなされる時期を予測できる。
- 相対的拒絶理由の審査が無い国では登録できても油断できないという心構えを得られる。
3.無事登録できても安心できない
(1)登録商標を使用しなければ登録を取り消されるリスク
無事商標登録できたとしても、登録した国において適切に使用をしていなければ、第三者からの請求(不使用取消請求)により登録が取り消されるリスクがあることを知っておいてください。
国によって使用開始までの猶予期間は異なりますが、登録した後3年又は5年のいずれかとする国がほとんどです。その猶予期間を経過した後、商標を使用していなければ、他人からの請求により取り消される可能性があることは知っておかなければなりません。その猶予期間経過直後に、「不意打ち的に」不使用取消が請求されることが実際にあります。
また外国で登録した商標を自ら使用するのではなく、他社に使用許諾(ライセンス)を与えて使用させることもあると思います。そのような場合には、商標の使用許諾を商標局に届け出ることを義務付ける国もあるので、ライセンスを与える国の制度がどのようなものか確認しておく必要があります。
それを怠ると、不使用取消請求を受けたときに、ライセンシーによる使用が登録商標の使用と認められないという事態も起こり得ます。
(2)登録後に類似商標の所有者から攻撃されるリスク
相対的拒絶理由(既に存在する他人の商標等に類似する商標登録出願を拒絶するという拒絶理由)を審査しない国や地域(欧州連合など)で商標登録を受けた場合、先行する商標登録の所有者から登録の取消しを請求される可能性があります。
そのようなリスクは、商標登録出願の前の商標調査によってある程度予測はできます。そうした場合には、商標が類似しないと主張して争う以外にも、商標を使用する商品又はサービスの範囲や使用地域を限定するなど、市場での棲み分けによる併存が可能かどうかを交渉することも有効です。
その国や地域以外でも商標登録を取得している場合には、全世界に視野を広げて全世界規模での併存の可能性を探る交渉を行うことも有効です。
(3)登録維持のために必要な手続きを怠り権利消滅のリスク
登録を維持するために、定期的に商標を使用している証拠の提出を義務付けている国もあります。外国での商標の使用に関する記録(取引記録や、商標が使用された状態を示した写真やカタログ、その他の資料)を適切に保存する体制を作っておくことが重要です。
また商標登録の存続期間の更新を忘れてしまうと権利が消滅してしまいます。それぞれの国で必要とされる手続きの期限を管理し、余裕をもって手続きをすることが重要です。
4.その他の気をつけるべきこと
(1)外国から詐欺や売り込みのメールが届くようになる
外国に商標登録出願を行うと、その後、見知らぬ相手からメールやレターが届くことがあります。これは、出願を行うことで、出願人の名称や住所が出願商標の詳細と共に公表されることが契機となることが多いです。
例えば、マドプロ出願を行い、国際登録がされると、その登録の内容が国際公表されるので、第三者の目に触れることになります。その結果、詐欺まがいのメールが送られることがあります。
所定の期間内に所定の銀行口座に料金を振り込めばあなたの商標をどこどこの名簿に登録するといった内容や、あなたの商標と同一の文字についてドメイン名の登録をしているが譲渡して欲しければ料金を所定の口座に振り込め、などという内容です。
よくよく確認せずに料金を払ってしまい、その後何の連絡も来ないということが実際に起こっています。このような類のメールに対しては、ジャンクメールとして一切返信をせず、無視することが適切です。不安な場合は出願を担当した代理人に相談しましょう。
世界知的所有権機関(WIPO)のマドリッド国際登録に関するウェブサイトでは、このような「怪しい」案内レターに注意するよう警告しています。「WARNING: Trademark Misleading Invoices」という見出しの記事には、2009年から現在までに確認されたレターのサンプルも掲載されていますので、参考にしてください。
不意に送られてくるメールや書類は詐欺まがいのものばかりではないので要注意です。マドプロ出願を行った場合には、指定した国の官庁から出願人宛てに直接書類が届くことがあります。
拒絶理由の通知や登録を許可する決定の通知などは指定国の官庁からWIPOの国際事務局を経由して国際登録出願の代理人(又は出願人)に書類が送られることになっていますが、それ以外の書類の送付については国際事務局を経由する必要がないため、出願人に直接送付されることがあります。
(2)ブランド保護にアグレッシブなブランドオーナーによる監視活動にも注意
アグレッシブに商標を保護する著名商標の所有者から、あなたの商標に少しでもそれと似た部分があれば(文字以外にも、書体や色の組み合わせでさえも)、その出願を直ちに取り下げるよう要求するメールが送られることがあります。
著名商標の所有者は、商標を保護するための予算が潤沢にあり、また、類似する商標に対してはその登録を阻止することが著名商標の希釈化防止のために必要との高いブランド保護意識から、積極的にそのような要求や、それに応じない場合には異議申立てを行うなどしてきます。このような活動をTrademark Policingとも言います。
外国でそのような争いが生じると長期化する傾向にあります。当局の判断も著名商標に有利な判断がなされることもあり、勝つまで争おうとすればあなたの企業の体力がかなり消耗することになりかねません。このようなリスクを判定する上でも、慎重に慎重を重ねた商標の採択、きめ細かな出願前の商標調査が重要となってきます。
まとめ
自社のブランドを保護することは経営者の重要な役割の一つです。外国での商標の登録手続には、日本で商標登録をした時には経験しなかったような事態に直面することがあります。
ここで紹介した4つのポイントを知っていると知らないとでは、大きな違いがあります。まずは外国の商標制度の大枠を理解して、それから関心のある事柄について学んでいくと良いと思います。