最終更新日 2023-06-23
TRIPS協定を受けて、日本では地理的表示を独自の制度で保護する方策が採られました。ぶどう酒や蒸留酒を対象とする酒類の地理的表示の指定が平成6年(1994年)に始まり、特定の農林水産物を対象とする特定農林水産物等の地理的表示の登録が平成27年(2015年)から始まりました。今回は、まず酒類の地理的表示から見てみましょう。
日本での酒類の地理的表示の概要
酒類の地理的表示は国税庁が管轄官庁となります。1994年の制度開始から現在まで25年以上が経過していますが、地理的表示として指定されたものは12件のみです。焼酎や泡盛などの蒸留酒についての「壱岐」「球磨」「琉球」「薩摩」、ぶどう酒についての「山梨」「北海道」、清酒についての「白山」「日本酒」「山形」「灘五郷」「はりま」「三重」です。
指定までの流れは、酒類の産地の事業者団体等からの申立てに基づき、申立てを受けた国税局長が内容を確認し、その報告を受けた国税庁長官が地理的表示として指定することが適当と認める場合には、地理的表示の指定を行うというものです。その際、名称、産地の範囲、酒類区分、生産基準(酒類の特性、原料・製法、管理機関等)が指定されます。指定がなされると官報に公告され、国税庁のホームページにも掲載されます。
酒類の地理的表示の定義
酒類の地理的表示制度において、地理的表示は次のように定義されています。
地理的表示とは、酒類に関し、その確立した品質、社会的評価又はその他の特性(以下「酒類の特性」という。)が当該酒類の地理的な産地に主として帰せられる場合において、当該酒類が世界貿易機関の加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を産地とするものであることを特定する表示であって、次に掲げるものをいう。
イ 国税庁長官が指定するもの
ロ 日本国以外の世界貿易機関の加盟国において保護されるもの
酒類の地理的表示に関する表示基準第1項第3号
酒類の地理的表示の指定の内容
地理的表示の指定については、次のように定められています。
国税庁長官は、酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であり、かつ、その酒類の特性を維持するための管理が行われていると認められるときには、次の各号に掲げる事項(以下「生産基準」という。)、名称、産地の範囲及び酒類区分を前項第3号イに掲げる地理的表示として指定することができる。
(1) 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項
(2) 酒類の原料及び製法に関する事項
(3) 酒類の特性を維持するための管理に関する事項
(4) 酒類の品目に関する事項
酒類の地理的表示に関する表示基準第2項
酒類の特性や、産地に主として帰せられる酒類の特性とはどのようなことをいうのかは、実際に指定された地理的表示の「生産基準」を読むとイメージがつかめます。12件の地理的表示のどれについても、それぞれの酒の特徴が上手く表現されています。産地との関連も自然的要因や人的要因などが的確に書かれていて、お酒好きの方なら、「なるほどな」と興味深く読めるでしょう。品質や社会的評価が「確立した」ものと認められるには、非常に長い年月をかけて、地域の共有財産として伝統が守り続けられ、世代から世代へと継承され、品質維持のための努力が払われてきたことが想像できます。お酒に対する愛着も増しますね!
酒類の地理的表示の使用方法に関する規制
地理的表示の使用方法については次のように定められています。
(地理的表示の保護)
9 地理的表示の名称は、当該地理的表示の産地以外を産地とする酒類及び当該地理的表示に係る生産基準を満たさない酒類について使用してはならないものとする。当該酒類の真正の産地として使用する場合又は地理的表示の名称が翻訳された上で使用される場合若しくは「種類」、「型」、「様式」、「模造品」等の表現を伴い使用される場合においても同様とする。
(地理的表示であることを明らかにする表示)
11 第1項第3号イに掲げる地理的表示を使用する場合(同項第9号イに掲げる行為により使用する場合に限る。)は、使用した地理的表示の名称のいずれか一箇所以上に「地理的表示」、「Geographical Indication」又は「GI」の文字を併せて使用するものとする。ただし、第2項の指定の日から2年を経過していない地理的表示その他国税庁長官がこの項を適用しないこととした地理的表示については、この限りでない。
12 地理的表示を使用していない酒類には、「地理的表示」、「Geographical Indication」又は「GI」の文字を使用してはならないものとする。
酒類の地理的表示に関する表示基準第9項、第11項、第12項
指定の条件として公表される「生産基準」に明記された原料と製法に従って生産され、同じく明記された特性を持つ製品だけがその「地理的表示」を名乗ることができるわけです。そして生産基準に明記された品質管理を行う機関が継続的に生産基準に準拠していることを確認することが要求されています。
お酒屋さんやお酒売場に行くと、お酒のラベルをじっくり見比べて、地理的表示が使用されているかついチェックしてしまいます。「指定された原料を100%使用していないからこっちのワインには地理的表示が付いていなのだろう」、「地理的表示のついていないお酒がずいぶんたくさんあるな」、「この産地は今後、地理的表示の指定の対象になり得るだろうか?」などなど興味はつきません。
贈り物や旅先でのお土産には、地理的表示の付いたお酒もいいと思います。その土地ならではのストーリーが、味わいに華を添えてくれるでしょう。