最終更新日 2024-08-24
外国で商標出願をするために必要な、英語の指定商品又はサービス(役務)を作成する時に、こんな困り事はありませんか?
- 何に気をつけて英語版を作ればよいか実はよくわかっていない
- 英語の指定商品・サービスは日本語の直訳で大丈夫なのだろうか
- 自作の英文が適切かどうかわからない
そんな時には、基本に立ち返って、指定商品・サービスの意義と役割を再確認してみましょう。そうすれば、どのような指定商品・サービスの表示が審査で要求されているか、そしてどのような表示であれば、商標を使用する指定商品又はサービスとして適切だといえるのかがわかります。
目次:
- 指定商品・サービスとは?
- 【役割その1】 願書の必要記載事項
- 【役割その2】 実体的審査における判断材料となる
- 【役割その3】 商標の権利範囲を定める
- 結局のところ、どんな英文指定商品・サービスを作成すべきか?
- むすび
1.指定商品・サービスとは?
指定商品、指定サービスとは、商標の登録のための出願書類(願書)に記載する、商標を使用する商品又はサービスの名称のことです。日本の商標法ではサービスのことを役務(えきむ)と呼びますが、ここではサービスを使います。
商品やサービスの名称なので、商品やサービスの取り引きの場面で使われる一般名称を使って表現します。例えば商品であれば「眼鏡」や「反射防止コーティングをした眼鏡」、サービスであれば「眼鏡の修理」や「眼鏡の防汚染被膜加工」のようなものです。
(注)余談ですが、商品・サービスの表示は、英語では「identification of goods and services」や「description of goods and services」と言ったり、名前という意味で「term」を使ったり、列挙された商品・サービスのことを「list of goods and services」と言ったりします。また米国では、「identification」は短縮形で「ID」が使われることがよくあります。
2.【役割その1】 願書の必要記載事項
指定商品・サービスは、上記のとおり、商標出願の願書に必ず記載しなければなりません。出願する商標を使用しようとする商品、サービスを願書において指定します。
どの範囲の商品・サービスをカバーすればよいかという問題があります。①必ず使用する予定の商品・サービス、②使用する可能性のある関連分野の商品・サービス、③使用する可能性は低いけれど防衛目的など戦略上押さえておきたい商品・サービス、をカバーするという考え方があります。
指定商品・サービスは、国際分類毎に分けて記載します。ニース国際分類では、商品やサービスの原材料、機能、用途などによって第1類から第45類までの区分が定められています。必ずいずれかの区分に分類されなければなりません。区分の数によって、商標局に納入する出願料金や登録料が決まるからです。
指定商品・サービスの表現方法は基本的には自由です。しかし、いずれかの国際分類に正しく分類できる程度に、具体的かつ明確な表示でなければなりません。表示が曖昧・不明確であって、商品やサービスの範囲を特定することができず、それが属すべき分類を特定することができない場合には、審査で拒絶され、補正が必要になります。
商標庁などの当局が受け入れ可能な商品・サービス名のデータベースがいろいろと公表されています。指定商品・サービスを書くときは、それらを有効活用し、参考にするのが近道です。詳しい使用方法は省略しますが、特許情報プラットフォームのJ-Plat Patの「商品・役務名検索」、WIPOのMadrid Goods & Services Managerなどが有名で、使いやすいです。
注意すべきは、願書に指定商品・サービスを記載して出願すると、その後の手続において商品・サービスの範囲を拡げることや新たに追加するような補正は認められません。そのため、使用予定の商品・サービスを出願時に漏れなく記載する必要があります。
指定商品・サービスが審査で受け入れられるかどうかは、出願国の審査官が判断します。国によって審査基準が異なり、大まかな記載で認められる国もあれば、具体的な記載でなければ認められない国もあります。可能であれば、出願先国の現地の代理人と、出願前に指定商品・サービスの記載について事前確認をしておきましょう。そこまで手が回らないという場合は、一応どこの国でも通用するような、ある程度具体的に指定商品・サービスを記載した、外国出願用の汎用リストを1つ作成することがおすすめです。
3.【役割その2】 実体的審査における判断材料となる
指定商品・サービスの表示は、出願商標が登録されるかどうかの審査における重要な判断材料となります。
出願商標が、指定商品・サービスの内容を直接的に記述するもの、その内容・品質を誤認させるもの、又はその普通名称である場合には、その出願は、「登録することができない商標」として拒絶されます。また、出願商標が他人の商標と混同を生じるおそれがあるかどうかという審査においては、まずは出願商標と他人の商標の指定商品・サービスとが同一又は類似するかが検討されます。同一又は類似していると判断されればその次に、商標が類似するかどうかが検討されます。
そのため、指定商品・サービスを記載する際には、出願商標との関係において上記のような「登録することができない商標」に該当しないかどうか、という点を考慮する必要があります。例えば、出願商標中に、指定商品・サービスの内容等(原材料、用途、効果など)に関係しそうな語句や図形要素が含まれている場合は要注意です。審査官からの拒絶を自ら招かないためにも、指定商品・サービスの書き方としては、その内容等に相当する部分を必要以上に詳細に書かない方が安全という場合もあります。
また、あなたの出願する商標の指定商品・サービスの範囲を広げれば広げるほど、他人の商標の指定商品・サービスと類似する(重複する)可能性は高くなり、他人の商標と混同のおそれがあるとして拒絶される可能性が高まります。出願前調査によって類似する他人の先行商標の存在がわかった場合には、先行商標の指定商品・サービスと重複する商品・サービスを願書に記載しないようにする、などの対応を検討しましょう。
4.【役割その3】 商標の権利範囲を定める
指定商品・サービスの表示には、権利範囲を明確にするという重要な役割があります。
商標出願が登録されれば、登録された指定商品・サービスの表示に基づいて権利範囲が決められます。登録商標の所有者は、登録された商標を、その指定商品・サービスについて、独占的に使用することができます。また、登録された指定商品・サービスの表示と類似する商品・サービスについて他人が紛らわしく類似する商標を使用している場合には、その使用を中止するよう請求することができます。
登録された指定商品・サービスのリストが商標を使用できる範囲になるため、実際に自分が使用する商品・サービスがどの指定商品・サービスの表示で保護されるのかがわかるように、一覧表などにして管理することが大切です。不使用取消請求などで使用証拠の提出を要求された時、商標登録の存続期間の更新などで使用証明(宣誓)が必要な場合、他人に商標の使用許諾(ライセンス)をする場合や商標権の一部を譲渡する場合など、登録後の様々な場面で確認が必要になります。
将来において登録異議申立てを行って類似商標の登録を阻止しようとするときや、商標権を侵害された場合に侵害に有効に対処できるように、出願時の指定商品・サービスが必要以上に狭く限定的な書きぶりになっていないか、という点にも注意すべきでしょう。現在使用中の商品・サービスの改良バージョンが数年後に市場に出されたときでも、出願時の指定商品・サービスである程度はカバーできるように、幅を持たせた指定商品・サービスを記載することも必要になってくるでしょう。
5.結局のところ、どんな英文指定商品・サービスを作成すべきか?
外国商標出願では通常、現地の代理人よって、現地で要求される言語に訳した指定商品・サービス表示が願書に記載されるため、自作の英文表示がそのまま出願されることはありません。あるとすれば、マドプロ出願の場合です。その場合でも、自作の英文表示が文法的におかしいものであれば、国際登録される前に審査官から指摘されます。
上記で確認した指定商品・サービスの意義といくつかの役割を踏まえて、どんな英文表示をどのように作成すればよいかについて箇条書きでまとめます。
- 外国で使用する商品・サービスを指定する。必要に応じて、関連する商品・サービス、戦略上カバーした方がよい商品・サービスを指定する。
- 商品・サービスを多岐にわたって指定すればするほど、他人の先行商標と類似するとして拒絶される可能性が増すので、少なくとも簡単な出願前商標調査を行うなどして、適切な範囲を決める。
- 指定商品・サービスは、国際分類のいずれかに分類されるように明確に記載する。受け入れ可能な商品・サービス名のデータベースを活用する。
- 指定商品・サービスの記載にあたっては、出願商標との関係にも注意して記載する。商品・サービスの内容を不用意に詳細に書いてしまうと、出願商標との関係において、記述的商標に該当する可能性や品質誤認を生じる可能性を指摘され拒絶される場合がある。
- 実際に使用する商標がどの指定商品・サービスで保護されるのかがわかるようにしておく。
- 指定商品・サービスを指定するにあたって、広く(broadly)記載するか、狭く具体的に(narrowly and specifically)記載するかを、様々な観点(出願国の審査基準、長期的な商品・サービスの展開状況、他社商標との関係等)から検討する。
- 自作英文表示については、なるべく受け入れ可能な商品・サービス名のデータベースの表現を流用したり、過去の登録採用例を検索したりするなどして、できるだけ、各国当局に受け入れられやすい表現に近づける。全く独自の英語表現が必要な場合は、「Grammarly」などの英文ライティングツールを活用するのも有効。身近に英語が得意な人がいれば文法チェックをお願いするのもよいですが、国際分類の分類分けに必要な、外せない表現というものもあるので、そのあたりに注意してください。
- 自作英文表示を含み、最終的な商品・サービスの英文リストについて、スペルチェックを入念に行う。
むすび
英文指定商品の書き方については、ブログ記事「外国商標出願のための英語での指定商品の書き方とすぐに使える参考サイト」、「【外国商標出願】商品名の英訳で困っていませんか?分類の基準とキーフレーズから解説」、「ニース国際分類とは?概要と一般的注釈をわかりやすく解説」でも解説していますので、ぜひ参考にしてください。
当事務所では、外国商標に関する様々なお困り事に対するサポートを行っています。英語での指定商品・サービスの記載が適切かどうか判断できない、現地代理人への商品・サービスの説明に苦労している、英語の指定商品・サービスだけでも誰かに作って欲しい、など外国商標出願用の英語の指定商品・サービス作成にについてお困り事がありましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。ご相談はこちらのお問い合わせフォームから、お待ちしております。