最終更新日 2021-07-06
海外で商標を登録しようとするとき、マドリッド協定議定書(マドプロ)による商標の国際登録は、ひとまず現地の代理人を使わずに一斉に多数国に外国出願ができることもあり、手続き面、費用面からも魅力的な選択肢となります。
マドプロは、世界の多様な商標制度を手続き面で可能な範囲で一本化させた商標の国際登録システムです。マドプロを利用できる国や地域、すなわちマドプロ加盟国は、毎年少しずつ増加しています。
この記事を読めば、
- 最新のマドプロ加盟国の調べ方
- マドプロを利用して得られる具体的なメリット
- マドプロを利用する上で知っておいた方がよいデメリット
がわかります。ぜひとも外国出願戦略にお役立てください。
最新のマドプロ加盟国の調べ方
マドプロを利用した商標の国際登録を取得しようとするためには、まずは、同一の商標について、日本で商標登録出願をしているか、登録済みであることが前提となります。
次に、海外で商標登録したい国や地域がマドプロに加盟している必要があります。2021年6月1日時点で、マドプロに加盟している国や地域は108あります。
マドプロ加盟国の調べ方は、
の2通りあります。リストの更新時期はWIPOの方が2~3カ月程早いので、最新情報が必要な場合はWIPOの方で確認してください。
世界の主要国の多くが加盟していますが、南アメリカやアフリカの主要国の一部に未加盟の国が見られます。日本の近隣でも香港、台湾は独自の商標制度はありますが、国として扱われないため加盟していません。
マドプロ加盟国の商標制度を調べるには、WIPOのウェブサイトの中の「MADRID MEMBER PROFILES」を利用できます。日本語版はまだありません。
マドプロを利用して得られる具体的なメリット
マドプロを利用するメリットは、WIPOの日本語ページ「マドリッド制度ー商標の国際登録制度」でも、コスト削減、手続きの簡素化、拒絶期間の明確化、管理の容易さなどが挙げられています。
以下は、実際にマドプロ出願に関わってきて、具体的なメリットを挙げてみました。
- 1つの出願手続きで、マドプロ加盟国の中から必要な国を指定することで、その国に直接出願したのと同じ効果が得られる。各国での出願日を確保するまでの手間を各段に減らすことができる。
- 指定する国数が多ければ多いほど、各国に直接出願する場合と比べて大幅な費用削減効果がでる。
- 日本国内で代理人を使わずに本人申請ができる。各指定国での現地の代理人も原則不要。ただし、審査において拒絶通報が出された場合に、それに対応するために現地の代理人を選任する必要が生じる。経験豊富な日本の弁理士を代理人につければ、国際出願の願書作成や現地での代理人の選任を任せることができる。
- 登録された後、各指定国のための10年後の更新手続きが1つの手続きですむため期限管理がラク。ただし、米国などで、使用証拠を所定の時期(米国国内での登録日を起算日とする)に提出することが要求されている国では、別途対応が必要。
- 指定国の追加ができる(事後指定という手続き)。
- 各指定国での審査において、最初の拒絶の理由を通知する期間に制限があるため(12ヶ月または18カ月)、審査の状況をつかみやすい。
- 登録後の管理がしやすい。名称・住所の変更や、指定商品役務の範囲の限定、権利の移転などを一括してできる。ただし、ライセンスの登録についてはそれを認めていない国が多数ある。
マドプロを利用する上で知っておいた方がよいデメリット
マドプロには上記のようなメリットがたくさんありますが、世界の商標制度は多様であり、手続き面で一本化できても、各国の審査基準や運用までは共通化できません。そこで、マドプロを利用する上で知っておいた方がよい、マドプロならではのデメリットを紹介します。
これらを考慮に入れ、一部の国はマドプロの指定国から外して直接出願をするなど、各国の審査実務を俯瞰して最適な出願戦略を練るとよいと思います。
- 日本の商標と同一でなければならない。日本で登録できる商標でも、国によっては「登録することができない商標」に該当する場合があります(この点については、【ブログ】日本で登録した商標をそのまま外国出願して大丈夫?拒絶を事前に回避するためのポイントで解説しています)。
- 日本での指定商品・指定役務の範囲内で、国際登録出願用の指定商品・指定役務を書かなければならない。そのためには、国際登録出願前にしっかり検討する必要があります。尚、願書は英語で作成しなければなりません。
- 国際登録の日から5年間はセントラルアタックの対象となる。その5年間は国際登録はマドプロの基礎となる日本の出願(基礎出願)または登録(基礎登録)と運命を共にします。その間に基礎出願の拒絶が確定したり、指定商品役務を削除したり、基礎登録の更新を忘れて消滅したり、基礎登録が不使用取消で取り消されると、国際登録も同じ範囲で影響を受けます。もちろん国際登録の指定国に影響は及びます。但し、救済措置が用意されています。
- 区分の変更ができない。商品役務の区分を決定する権限は、マドプロを管轄する国際事務局が持ちます。指定国における審査で、区分が別の区分に属すると判断された場合には、指定できない場合があります。
- 直接出願した場合に認められる手続きが、マドプロ出願では認められない場合がある。分割出願、補正に関する制限、出願変更に関する制限など。アメリカでは、補助登録に補正(変更)できません。
- 審査で拒絶された場合に、現地の代理人を介して応答することが必要となるため、その段階で選任と応答、その後のフォローに要する費用が生じる。
- 登録されても安心できない国がある。権利の有効性、権利行使のしやすさなど、商標制度が成熟していない国でマドプロに加盟している場合には、予想外の事態に陥るリスクがあります。それ以外の国でも、現地で商標権侵害等の問題が生じた場合、現地の代理人が出願段階でサポートしていないことで、あなたの事業内容や商品・サービスについての理解に時間がかかるなど、迅速対応できないリスクもあります。
以上、重要だと思うメリットとデメリットを具体的にあげました。商標の各国での登録可能性、指定しようとする国の制度、日本の出願・登録の内容、保護が必要な国の数、商標登録の目的、予算、登録までの期間等、様々な観点から検討して、マドプロにするか、直接出願にするか、両方を併用するかを決めるとよいでしょう。
マドプロという制度は、日本国内の商標登録出願や商標登録と密接な関係にあります。複雑な制度設計になっていますので、弁理士などの専門家のアドバイスを受けながら利用すれば安心です。