最終更新日 2021-07-04
種苗法の改正が今国会で見送りとなりましたが、その間マスコミやネット上でよく取り上げられていました。次の国会でも審議されることになり、また議論が盛り上がってくるはずです。自家増殖禁止という点については議論が尽くされていないように思われ、不明な点、不安な点が残ったままとなっています。
【2021年7月更新】種苗法の一部を改正する法律は2020年12月2日に成立し、9日に公布されました。主な条文の施工日は2021年4月1日及び2022年4月1日となっています。本記事の本文の内容には特に影響はありません。
今回はそういう議論には深入りせず、1.品種登録の概要、2.品種登録のメリット、3.海外での品種登録出願、という3つの観点から、いま知っておきたい品種登録の基礎知識をまとめました。
1.品種登録の概要
- 種苗法に基づき、植物の新品種を開発した人がその種や苗を農林水産省に品種登録することで、その種や苗を一定期間(25年又は果樹の場合は30年)独占利用できる権利である育成者権を取得することができます。
- 登録されるための要件は、既存の品種と区別できる特性を有すること(Distinctness)、その特性が同一世代で均一に現れること(Uniformity)、その特性が繰り返し繁殖させても変化せず安定していること(Stability)という3つの登録要件(DUS要件)を満たす必要があります。
- 前記に加えて、その種や苗を国内で誰かに譲渡した場合にはその後1年以内に品種登録出願しなければならないという期間の制限(未譲渡性要件)があります。
- 審査は、実際に種や苗を植えて、上記のDUS要件を満たすかどうか審査されます。
- 品種の名前についても審査があり、他の品種や登録商標に似ている場合には名称の補正が求められます。
- 審査には通常、2~4年程度かかります。
- 権利の存続期間が終了すれば(商標のような存続期間の更新はありません)、パブリックドメインとなり、誰もがその品種を自由に利用できます。
2.品種登録のメリット
- 他の知的財産権と同様に、他人が無断で登録品種を利用しないよう警告、差止請求、損害賠償請求などができます。
- 登録品種の利用を契約により許諾することによって、許諾料を徴収しながら、利用者や利用地域を制限することができます。品質の維持、市場の管理が可能となります。
- 利用を制限することによって、登録品種をブランド化することができます。
3.海外への品種登録出願
- 日本で品種登録を受けても、正規に購入した者による海外への品種の無断持ち出しは、現行法では有効に制限できません。持ち出された国でも品種登録をしておく必要があります。
- 品種保護に関する国際条約であるUPOV条約によれば、海外での品種登録出願は、日本の出願日から1年以内であれば、優先権を主張することができます。
- 同じくUPOV条約によれば、日本で最初に品種を譲渡した日から4年以内(果樹は6年以内)に海外で品種登録出願をしなければ、未譲渡性の要件を満たさないとして登録できません。国により異なりますので、事前確認が必要です。
- UPOV条約加盟国は75か国であり、パリ条約やマドプロの加盟国と比較してもずいぶん少ないです。非加盟国に出願する場合には、その国の品種登録制度の情報を事前に入手して要件等を確認しておく必要があります。
その他、費用について
- 1か国あたり数十万円~数百万円程度かかります。種や苗の海外への発送や、現地での栽培試験の実費など様々な費用が発生しますので、あらかじめ、出願予定国での費用概算の見積りを取得しておく必要があります。海外への品種登録出願についての経費支援や海外での品種登録出願状況などについては、以下の2に記載の植物品種等海外流出防止対策コンソーシアムのウェブサイトが参考になります。
そして、今後の見通しなど
- 日本では種苗法改正が議論されており、次回の国会でも審議される予定です。法改正では海外持ち出しの制限や自家増殖の禁止などが盛り込まれる予定であり、育成者の権利の保護強化が進められます。【冒頭記載の通り、種苗法は一部改正されており、前文の内容が盛り込まれました。】このため、海外から日本への品種登録出願の増加が見込まれ、同時に、日本から海外への出願も活発になると思われます。
- 海外への出願のための情報収集には、植物品種等海外流出防止対策コンソーシアムのウェブサイトが役立ちます。海外の制度情報の提供、経費支援プログラムなどのサポート情報を入手できます。
- 新品種の開発には10年~20年程度以上の年月を要し、その間の研究開発費用も数百万円から数千万円に上ると言われています。その投資分を権利存続期間内に回収することは容易ではありません。適切な契約と合理的な許諾料の設定と、戦略的なブランディングを展開するなど、育成者の方々における知財活用の積極活用が求められます。
以上、品種登録の基礎をまとめてみました。これ以外にも、種苗の海外流出防止、自家増殖禁止の問題、在来種や伝統品種の保護の必要性、農業競争力強化支援法によって国や地方時自体が持つ種苗の知見を民間企業に提供することによる問題、ひいては日本の農業の持続化可能性まで、考えるべき問題はたくさんあります。