最終更新日 2023-07-09
タイは2017年11月にマドプロに加盟し、これまでに日本からもタイを指定国とする多くのマドプロ出願が行われています。
WIPOが提供するマドプロ出願のデータベースであるMadrid Monitorを使うと、どのような商標出願が拒絶されていて、どのような商標出願が拒絶されることなく登録されているかを調べることができます。
この記事では、最近の30件の、タイを指定国に含むマドプロ出願で発せられた暫定拒絶通報の内容(拒絶理由の種類)を確認して、どのような商標出願が拒絶されているかを紹介します。
また、暫定拒絶通報を受けることなく保護認容声明が発せられた、最近の30件のタイを指定国に含むマドプロ出願の内容を概観してその特徴を紹介します。
1.最近の30件のマドプロ出願(タイ指定分)の暫定拒絶通報の内容
国際登録日が2021年12月26日から2021年12月8日までの30件のマドプロ出願タイ指定分の暫定拒絶通報の内容を調べました。検索方法は次のとおりです。
Madrid Monitorの「advanced search」を選択し、「origin」は「JP」、「Designated contracting party」は「TH」、「Transaction (gazette)」は「”RFN* TH”」と入力し、「search」ボタンを押します。「Transaction (gazette)」に入力する検索コードは、Madrid Monitoのヘルプページの「Other Search」の「3. Transaction」の下に列挙されています。調査の目的によって活用してください。
- 指定商品・サービスの表示が広範かつ曖昧である・・・30件
- 商標が商品・サービスの内容を直接的に表示しており識別力を欠く・・・3件
- 装飾されていない英文字列・記号の組み合わせで顕著性を欠く・・・3件
- 識別力を欠く要素について権利不要求とすべき・・・2件
30件の出願すべてに対して、指定商品・サービス不明確という拒絶理由が出されていました。それに加えて、識別力欠如、顕著性欠如、権利不要求などの理由を併せて通知されるものがありました。
2.上記の暫定拒絶通報からわかること
タイは、指定商品・サービスの記載にはとても厳しい国であることがわかります。
タイはニース協定には加盟しておらず、ニース国際分類を参考として使用しています。上記の30件では、WIPOの国際事務局が受け入れている商品・サービスの表示に対しても、範囲が広すぎたり内容が曖昧であったりするものについては、具体的な表示に補正することが要求されています。
例えば、化粧品の「Cosmetics」という表示も拒絶の対象となります。具体的な化粧品の名称、例えば、「cosmetic creams for skin care」に補正するよう提案されます。Madrid Monitorの検索結果として表示された他の出願で発せられた暫定拒絶通報の写しを読めば、実際にどのような表示が拒絶対象となり、どのような提案がなされるかを知ることができます。ただし、提案はほんの一例しか挙げてくれません。
次に、商標の識別力、顕著性に関する審査も非常に厳しいという印象です。英文字などの商標から、指定商品やサービスの内容に関連する意味合いが生じる場合はほぼ拒絶されています。また日本語文字からなる商標であっても、その音訳の英語表示からその商標の意味を判断し、商品の内容を直接表示するものだという拒絶理由が発せられた例もあります(上記30件以外です)。
英文字の3文字程度の文字列で、装飾が施されておらず、既成の単語でないものは、商標としての識別力を欠くものとされやすいです。出願拒絶の対象となったり、その部分が出願商標の一構成要素である場合にはその部分について権利不要求(ディスクレーム)の対象とされたりする場合があります。
3.暫定拒絶通報が発せられずに保護が認められた最近30件のマドプロ出願の特徴
Madrid Monitorの検索結果の全287件の中から、最近30件のマドプロ出願タイ指定分として、国際登録日が2021年1月25日から2021年8月23日までの出願の内容を確認しました。検索方法は次のとおりです。
Madrid Monitorの「advanced search」を選択し、「origin」は「JP」、「Designated contracting party」は「TH」、「Transaction (gazette)」は「”GP18N TH”」と入力し、「search」ボタンを押します。
出願商標に関しては、いずれも一見して識別力を有していると考えらえる商標でした。他の商標にも目を通してみれば、タイではどのような商標が、暫定拒絶通報を受けることなく保護されるのかという傾向をつかめます。
指定商品・サービスの表示に関しては、あらかじめ具体的な表示となっていました。中には、指定国タイの指定商品・サービスの表示を、国際登録の指定商品・サービスの表示(メインリスト)とは別に、限定して記載しているものありました。
マドプロ出願において、メインリストでは、基礎登録に対応して商品・サービスの範囲を広くカバーする一方で、具体的な表示が要求される指定国向けに、あらかじめ商品・サービスを限定して暫定拒絶通報を避けるという方法です。
この方法は毎回必ず成功するとは限りませんが、上手く行けば現地の代理人を選任することなく指定国での保護を得ることができます。
このように、Madrid Monitorを活用して他社の事例を研究することにより、指定国で保護されやすい商標はどのようなものか、指定商品・サービスの表示はどの程度具体的なものが求められるかがわかります。タイ国内の商標データベースではタイ語の知識がなければ情報を得ることはできませんが、Madrid Monitorを使えば、英語で役立つ情報を入手することができるのでおすすめです。