商標の識別力とは?|具体例で解説

最終更新日 2023-06-14

商標の話になると、「識別力」という言葉がよく出てきます。英語では「Distinctiveness」といいます。これがどういう意味かについて、商標になじみない人にもわかるように解説します。

まずは言葉の意味から

まず始めに商標とは、業務を行う中で、事業者が商品やサービスにつける目印の1つです。目印をつけることによって、販売する商品や提供するサービスが自分の業務範囲に属するものであることを明らかにします。言い換えると、商品、サービスの出所・提供源(ソース)が誰であるかを示す目印が商標です。

「識別する」とは、一般的な辞書によれば「物事の種類や性質などを見分けること」と説明されています。そうすると、「識別力」とは「物事の種類や性質などを見分けることができる能力」という意味になりそうです。

しかし、商標で使う「識別力」という言葉は、「商品やサービスの出所・提供源(ソース)を見分けること」という意味で用いられます。

具体例を見てみましょう

例えば、スターバックスの店舗でコーヒーを頼むと、コーヒーが入ったカップや、カップを覆う紙のスリーブにスターバックスの英文字やロゴマークが印刷されています。このような文字や図形は商標です。

コーヒーカップに印刷されたスターバックスの英文字やロゴマークは、そのコーヒーが誰が提供する商品であるかがわかるから、「識別力がある」とされます。

いろいろなコーヒー飲料メーカーのコーヒーが一度に並べて販売されているとき、例えば、コンビニエンスストアの陳列棚に様々なメーカーのコーヒー飲料が並べられているとします。そのとき、スターバックスの文字やロゴマークが付けられたコーヒー飲料はスターバックスが提供する商品であることがわかるから、他の文字やロゴマークが付けられたコーヒー飲料から簡単に見分けることができます。

もしもコーヒーのカップに印刷されている言葉が「モカ」や「ブルーマウンテン」だったらどうでしょう?

コーヒーの「種類」は確かにわかります。しかし誰が販売しているコーヒーなのかはわかりません。誰が品質などに責任をもってコーヒーを提供しているのかが明らかになっていないのです。種類というのは、コーヒー飲料という商品との関係においては、コーヒー飲料が一般的に有する性質や特徴の1つにすぎません。

コーヒーのカップに印刷されている言葉が「ケニヤ」や「エチオピア」などの地名だったらどうでしょう?あるいは、「コクあり」「シャープな酸味」などの味の特徴だったら?「コーヒー」「炭焼きコーヒー」「アイスコーヒー」「カフェオレ」……だったら?

いずれの場合でも、コーヒー飲料という商品の性質や特徴、あるいは普通名称を表しているにすぎませんね。このような言葉は、どんなコーヒー業者の方でも業務上、普通に使用する可能性、必要性のある言葉です。

このような言葉は、コーヒー飲料という商品との関係では、商品の出所・提供源(ソース)を表していないので、誰が提供する商品であるかを見分けることができず、「識別力が弱い」、あるいは「識別力が無い」などとされます。

以上をまとめると、商標に識別力があるという意味は、商標という目印によって商品やサービスの出所・提供源(ソース)が誰であるかを認識することができるということです。

なぜ識別力が問題になるのか?

識別力がある商標は商標登録を受けることができて、商標法によって守られます。誰が提供する商品であるかがわかる目印は、消費者が商品を購入するための重要な情報になるため、関係のない事業者がその目印を盗用すれば、消費者が期待と違う商品を購入してしまうことになり、経済活動が混乱してしまうからです。

識別力が弱い、あるいは識別力が無い商標は商標登録を受けることができず、商標法よって守られません。識別力が弱い又は無い商標は他の事業者の自由に使用できるように開放しておかなければならないからです。一企業がそういう商標を独占してしまうと、経済活動が混乱してしまいます。

識別力が弱い商標でも例外的に商標登録が認められる場合があります。「使用による識別力を獲得した商標」というのがそれなのですが、これについては別の機会に解説します。

最後に、米国特許商標庁(USPTO)のホームページにある強い商標(Strong trademarks)というタイトルのページを紹介します。識別力の強さを4つの段階に分けて説明しています。英語のサイトですが、具体例を挙げてわかりやすく解説されていますので、ぜひご参考にしてください。