最終更新日 2021-06-28
新商品・サービスの名前をつける方法について、インターネット上では役に立つ情報が数多く紹介されています。テレビCMで宣伝されている大ヒット商品の商品名は、工夫を凝らした、よく考えられた、しかもシンプルでわかりやすく親しみやすいものが多いことがわかります。しかし、実際にやってみると何日かけても良い案が思い浮かばない、既存の商品名にどこか似たものばかり、ということはないでしょうか?
今回は、思い入れのあるネーミング候補を数多く挙げた後で、候補を絞り込むときに考慮すべきポイントを5つ紹介します。ネーミングの目的、ネーミングの手法を簡単に確認した後で、外国の視点を考慮に入れたネーミング案を絞り込む際の5つのポイントを解説します。
1.ネーミングの目的
商品にはもともとその商品を表す名前がついています。普通名称(または一般名称)と呼ばれるもので、例えば「あんパン」「ヨーグルト」「赤ワイン」「地ビール」などです。こういったものに加えて独自の名前をつけることには目的があります。
例えば、
・商品を知ってもらう、選んでもらう、記憶してもらうため
・商品情報を伝えやすくするため
・口コミで宣伝してもらいやすくするため
・自分が責任を持って作った商品であることの目印(品質保証の目印とするため)
などです。
2.ネーミングの手法
ネーミングを専門とする業者に依頼するのも一つの方法ですが、その場合でも、商品に対する思いれや開発秘話、商品の特徴、商品を世に出すことで人々にどんなメリットを与えたいのか、などネーミングの核となる部分には商品開発者からの詳細なインプットが不可欠です。
商品に関連するインプットから様々な言葉を抽出して、キーワードを見つけ、それを加工して名前の案を作り上げていく、という手法をとるのが一般的です。
キーワードを加工するには、複数のキーワードの組み合わせ、掛け合わせ、一部変更、短縮化、接頭辞・接尾辞の追加、逆から読む、語呂合わせなど、様々なやり方があります。
ネーミング案をできるだけ数多く候補として残します。それらを様々な観点から絞り込んでいき、最終的に、商標調査、インターネットでの使用調査、ドメイン名検索などを経て確定していきます。
3.ネーミング案を絞り込む際のポイント5つ
(1)商標登録を取得しやすいものを選ぶ
ネーミング案を絞り込むために最も重要なポイントは、採用された場合に、それが法律で守ってもらえる名称であることです。言い換えると、他人の権利を侵害しないでその名称を使用することができ、同時に他人が無許可で使用した場合にその中止を求める法律上の根拠が持てる、ということです。
具体的には、特許庁に商標登録して商標権を取得できる商標がネーミングの最終候補として残されるべきです。苦労して選択したネーミングが商標登録できなかった場合には全てのプロセスが無駄になってしまいかねません。
商標登録を取得しやすいものとして、次の点を検討します。最終的には特許庁の商標データベースなどを利用した商標調査をして登録可能性を判断します。
- 商標登録をすることができる商標であること・・・自分が登録しようとする商品・サービスとの関係において普通名称でないこと、慣用商標でないこと、商品・サービスの性質等を直接的に表していないこと、など誰もが業務において使いたい、又は使う必要のある表示ではないことが必要です。商標登録を受けることができる商標は商標法第3条で列挙されています。詳しくはこちらの商標法第3条に関する部分をご覧ください。
- 既に登録された商標と同じか似ているものでないこと・・・自分が使用・登録しようとする商品・サービスと類似する商品・サービスについて、既に他人がよく似た商標を登録していれば、その商標登録の所有者から許可を得なければその商標を使用することができません。その他にも商標登録を受けることができない商標が商標法第4条で列挙されています。詳しくはこちらの商標法第4条に関する部分をご覧ください。
(2)商標の強さと消費者への浸透のしやすさの関係を理解する
「商標のヒエラルキー」と呼ばれるアメリカの商標実務上の概念を簡単に紹介します。商標には強い商標(ストロングマーク)と弱い商標(ウィークマーク)とがあり、次のような段階に分けられています。
最も強いものから順番に、造語商標(Fanciful marks又はCoined marks)、恣意的商標(Arbitrary marks)、暗示的商標(Suggestive marks)、記述的商標(Descriptive marks)、普通名称(Generic words)です。
- 造語商標とは、「GOOGLE」のような既成の語ではない文字列からなるものです。商標を使用する商品・サービスとの関係において、商標は商品・サービスの特徴や性質などを表しません。単に商品・サービスの出所(ソース)を示す出所表示として機能しています。識別力は極めて強い。
- 恣意的商標とは、コンピュータについての商標「APPLE」のように、既存の語からなる商標であっても、その語の持つ意味は使用・登録しようとする商品・サービスとは無関係であるものです。こちらも単に商品・サービスの出所表示として機能しています。識別力は強い。
- 暗示的商標とは、「MICROSOFT」のように、想像力の助けを借りて商品の用途などを暗示させるものです。この例の場合は、商品が「マイクロコンピュータ用のソフトウェア」であることを想像させます。しかし、直接的には商品の用途そのものを言い表していません。出所表示としての機能を果たしますが、識別力は恣意的商標には劣り、やや弱い。
- 記述的商標とは、食品保存用容器の受託製造サービスについての商標「COOL PAK」のように、サービスの特性などを表示するにすぎない商標です。このような商標は原則として登録は認められません。例外的に、その商標の所有者が商標を長期間使用した結果、消費者にサービスの唯一の出所(提供者)であると認識されるに至った場合には登録が認められます。使用による識別力が認められれば出所表示として機能を果たしていることになりますが、識別力は弱い。
- 普通名称は、例えば「beer」はビールの普通名称なので、ビールに使う商標としては登録が認められません。このような普通名称は誰もが商品を指し示す一般的な用語としてのみ理解し使用するものなので、一私人が独占することはできません。出所表示として全く機能せず、識別力は無い。
識別力が強い商標は、商標の所有者が商品・サービスの出所であることを明確に特定できるため、強い商標とされます。識別力が弱い商標の場合は、商品・サービスの出所よりもそれらの性質等をより強く連想させるため、弱い商標とされます。
言い換えると、強い商標であるほど登録がされやすくなる、独創的な商標なので模倣を認定しやすく、他人の不正な使用から保護されやすくなる。弱い商標であるほど登録が困難になる、商品等の特徴など誰もがよく使う部分を含むので併存使用例が多く、他人の不正な使用から保護されにくくなる。
その一方で、造語商標、恣意的商標のような強い商標は、商品・サービスとの関連性がほとんどないため、消費者に認知され浸透されるまでに時間がかかり、多大な宣伝広告などの努力が必要になる。逆に、暗示的商標や記述的商標のようなやや弱い、又は弱い商標は、商品・サービスとの関連性が高いため、商品・サービスの性質等をアピールしやすく消費者に認知されやすい、という側面があります。
そうすると、最も使い勝手のよい商標のタイプは商標ヒエラルキーの中間に位置する暗示的商標になりそうで、それが現実的な選択肢と言えそうです。しかしSNSの影響によって企業が大がかりな広告宣伝活動をしなくても爆発的に人気が出ることもあるので、もともと強い商標とされている造語商標、恣意的商標も有力な選択肢の1つとなります。
この商標のヒエラルキーを参考にして、自分の選択しようとする商標がどのタイプのものか、それを選ぶと商標登録のしやすさはどうか、消費者への浸透のしやすさはどうか、自社にはどれが適しているかなどを十分に理解した上で候補を絞り込んでいくことが重要です。
(3)外国での商標登録取得も考慮する
将来、外国にも商品を輸出する可能性もないとはいえません。日本に来た外国人が商品を気に入りSNSで外国に情報発信して外国で人気がでるという状況も普通に起きています。
外国でも伝わりやすいような名称であるか、外国語で表記する場合に翻訳・音訳はしやすいか、外国でも商標登録しやすいか、などをも考慮に入れます。
(4)コノテーションチェック(ネガティブチェック)
外国語によると商品の名前としては好ましくない、あるいはネガティブな意味を持ってはいないかをチェックします。
よく言われているところでは、「ポカリスエット」の「スエット」は「SWEAT」として「汗」の意味があるから外国では飲料の名前としては好まれない、「CALPIS」(カルピス)の「PIS」は「小便、おしっこ」の意味を持つ英単語「piss」の発音に似ているから外国では飲料の名前としてはふさわしくない、という例があります。
その他、感染症の名前を連想させる商品名や、音読した場合に外国の言語や方言で卑猥な言葉の発音に似ている商品名の他、好ましくないイメージを想起させる図形なども避けるべきでしょう。
(5)外国著名ブランドと似ているとやっかいなことに
商標中に他の外国の著名ブランドの名称を含んでいたり、著名ブランドを連想させるような要素が含まれたりしていないかチェックします。
諸外国の著名ブランドのオーナーは、ブランド管理に積極的に取り組んでいます。少しでも紛らわしい商品名やブランドの存在に気づけば、その使用の中止を求めるレターやメールを送り付けたり、商標登録出願中であれば登録を阻止するための情報提供や異議申立てを行ったりなどします。
これは著名ブランドが希釈化(類似する商標の併存によってブランド価値が弱められてしまうこと)しないための措置であり、ブランドオーナーとしての義務でもあります。
こうなってしまうと、対応を放置できないような事態に巻き込まれる可能性があります。よく注意しておいてください。
新商品・サービスのネーミング案の絞り込みの段階で考慮しておいた方がよいポイントを紹介しました。コロナ禍が収束しグローバルな交流が再び活発になれば、訪日外国人を通じて海外へも販路が拡がる可能性があります。ネーミングをする際には、外国の視点も持っておくと将来役立つと思います。