米国商標で補助登録を取得することのメリットと注意点

最終更新日 2022-08-16

米国の商標を登録する登録簿には、主登録簿簿 (Principal Register)補助登録簿 (Supplemental Register) の2種類あります。普通は主登録簿に商標登録します。主登録簿に登録される商標は、識別力を有する(distinctive)商標であり、登録されることによって強力な保護を受けることができます。

一方の補助登録簿に登録される商標は、米国内で現実に使用されている識別力の弱い商標であり、受けられる保護は主登録簿よりは劣るものとなります。識別力が全く無い普通名称(Generic terms)は、補助登録簿でも登録できず、商標法上の保護は受けられません。

この記事では、主登録簿よりも保護の劣る補助登録簿にあえて商標登録することのメリットと、補助登録を取得する際の注意点を紹介します。この記事を読めば、主登録への出願が識別力不足で拒絶されている場合でも、ブランド化をあきらめてしまうにはまだ早いことがわかると思います。

1.補助登録簿とは

現実に米国内で使用されている識別力の弱い商標のための商標登録簿です。具体的には、例えば次のような商標が対象となります。

  • 単に記述的な商標(例:「AMERICAN JUDO」|第41類の柔道のトレーニングサービス)
  • 地名からなる商標(例:「Marina Del Rey Insurance Services」|第36類の保険サービス)
  • 人の姓からなる商標(例:「COHEN’S」|第40類のカビ取りサービス。商標権者の姓がCohen)
  • 商品の形状からなる図形や立体形状の商標(商品の機能に由来する形状でないもの)(例:「鍋蓋のつまみの立体形状」|第21類の非金属製の鍋蓋のつまみ)

上記の例の商標は、主登録簿に出願された場合には、審査において単に記述的であるとして拒絶されます。しかし、補助登録簿に出願された商標は、識別力を完全に欠くものでなければ拒絶されません。識別力欠如以外の拒絶理由については、主登録簿と同じです。

2.補助登録簿に登録されることによって得られるメリット

(1)補助登録簿のメリット

補助登録簿に登録されると以下のようなメリットがあります。

  1. 後から他人が紛らわしく類似する商標について登録出願した場合には、米国特許商標庁の審査では補助登録簿の登録商標も拒絶理由の引例となる。したがって、補助登録簿に登録すれば、類似する後願を排除できる。
  2. 登録商標であることを示す「R」を丸で囲んだシンボルマーク(以下、Rマーク)を付けることができる。Rマークを付けて商標を使用することにより、消費者に対して自分の商標であることをアピールできる。
  3. 他者による侵害行為に対して商標の使用差止めや損害賠償を求める訴訟を提起することができる。但し、下記(2)で述べるような主登録簿に与えられているメリットを享受しないため、訴訟における立証責任のハードルが高く勝訴することは容易ではない。
  4. 補助登録簿に登録された状態で5年間商標を米国内で継続的に使用すれば、識別力を獲得したことの一応の証拠となる。新たに主登録簿への連邦商標登録出願をし、既に登録になっている補助登録について5年間の継続使用により識別力を獲得したことを主張することができる。但し、審査官から更なる証拠資料の提出を求められることもある。
  5. 補助登録簿では、異議申立てのための公告がされずに速やかに登録される。そのためライバル会社に商標ウォッチングで探知されにくく、気づかれないうちに使用実績を積むことができる。

(2)主登録簿にあって、補助登録簿にないメリット

しかし、残念ながら補助登録には、主登録が持つ以下のメリットを享受できません。

主登録が持つメリット

  1. 登録した商標をその指定商品・サービスについて、アメリカ全土で独占排他的に使用する権利を有すると推定される。
  2. 登録した商標の所有者であることが推定される。
  3. 登録商標の所有者であることが全米に通知されたことになる。
  4. 登録後5年間継続使用され、現在も取引において使用されていれば、第15条宣誓書を提出することにより不可争性の利益を取得することができる。
  5. 税関に登録することで、模倣品の水際取り締まりができる。

補助登録では1~3のメリットを享受できないため、補助登録に基づいて訴訟を行う場合は、自分がその地域でも商標を使用していること、その地域の消費者に知られていること、消費者が自分の商標とサービスを関連づけて把握していることなど、自分が商標の所有者であることを立証しなければなりません。

4については、補助登録の場合は、登録後5年経過した後でも、第三者から登録の有効性を争う請求を受ける可能性があります。常に登録を取り消されるリスクがあります。5については、補助登録は水際取り締まりのために税関に登録することができません。

3.補助登録簿への出願の注意点

(1)主登録簿への出願から補助登録簿への補正

通常、主登録簿に出願した商標が審査において単に記述的であるという理由で拒絶されると、反論を行っても審査官の認定を覆すことができないような場合には、主登録簿から補助登録簿への補正を試みることができます。通常、審査官から補助登録簿へ補正するよう提案されます。

この場合、対象となる出願に係る商標が米国国内で使用されているか、あるいは対象となる出願が本国登録ベース(44e)の登録要件を満たしているか、いずれかの状態になっている必要があります。

使用意思に基づく出願(1b)の場合は、使用を開始して使用宣誓書(Amendment to Allege Use)を提出して使用ベース(1a)に変更しておかなければなりません。この場合に注意すべきことは、有効出願日(effective filing date)は使用宣誓書の提出日に繰り下がることです。類似する他人の商標出願が存在することがわかっている場合には、有効出願日が繰り下がることで自分の出願に不利益が生じないか確認しておく必要があります。

(2)はじめから補助登録簿へ出願することも可能

最初から識別力に問題があるとわかっている場合は、使用ベース(1a)又は本国登録ベース(44e)にて補助登録簿に出願することもできます。

(3)補助登録簿への補正ができないケース

マドプロ経由の米国指定の場合(66a)は、補助登録簿への補正は認められません。

米国での出願ベースの話がでてきましたが、出願ベースの種類と内容については、【ブログ】米国商標 出願の根拠を決める基準は使用と本国登録の有無をぜひご参照ください。

(4)補助登録に関連するその他の注意事項

本国登録ベースで補助登録を取得したとしても、それだけでは後に主登録簿に出願する際に使用による識別力獲得の主張はできません。補助登録簿から主登録簿に出願する場合、米国内で5年間の使用実績ができた段階で使用による識別力が獲得できることに注意しましょう。

5年間の使用実績を作る際には、商標が、その指定商品・サービスについての目印として商標的に使用されていることが明らかとなるように使用します。TMマークまたはSMマーク(未登録の商標またはサービスマークであることを示す表示)を付けたり、商標が他の宣伝文句に紛れたりしないように、はっきり目立つように表示させることが必要です。

識別力が弱いとされた立体形状でも補助登録は認められます。実際の使用の場面では、その立体形状が「商品の機能のみから導かれた形状」であるとみなされないように注意します。その商品の機能を果たすためには誰が作っても同じような形状にならざるを得ない形状は補助登録簿でも登録はされません。その立体形状が機能を超えて、商品の識別標識として需要者に認識されていることを裏付けるような宣伝コピー(例えば、「ユニークな形状は〇〇〇〇という愛称でファンの間で親しまれています」など)を使うなどの商品プロモーションが重要です。反対に、自らすすんでその形状が「機能的である」ことを(例えば、「熱を通しにくく持ちやすい」形状であることなど)アピールしてはいけません。

まとめ

補助登録簿では、主登録簿での出願が識別力を欠くと審査で判断された商標でも連邦商標登録を受けられる可能性があります。そして補助登録であっても連邦登録商標として、主登録の場合とほぼ同じように使用することができます。5年間米国内で使用すれば、再度、主登録簿への登録にチャレンジできます。

識別力が弱い商標は、商品の品質や特徴を表していたり、地名を含んでいたりと、正しく使用しさえすれば、消費者に比較的認知されやすい性質をもつ商標です。上記のメリットを考慮して、主登録簿での登録可能性が低い場合でも補助登録簿で登録できる見込みがあるのなら、ぜひ補助登録を利用することを検討されてはいかがでしょうか。

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