最終更新日 2024-08-22
米国の商標出願では出願の根拠(Filing basis、出願ベース)を選択する必要があります。後で説明する5種類の中から選ぶのですが、マドプロで米国指定をする場合は出願根拠は1つに決められていますので、実質的には4つの中から選択することになります。
選択の基準は、米国で既に出願商標を指定商品・サービスに使用しているか否か、出願商標について対応する本国での商標登録があるかどうか、対応する外国商標出願があってその優先権を主張するか、という点です。このような点を考慮しながら、出願根拠を決めていきます。
しかし、審査段階でその出願根拠の要件を満たしていないと判断されることもあれば、出願根拠の中にはそのままでは「登録の根拠」とはならないものもあります。そのため、別の出願根拠と組み合わせて出願をすることや、途中で出願根拠を変更することが必要になります。
そこで今回は、それぞれの出願の根拠の内容をまとめてみました。選択するときに気をつけるべきポイントとともに紹介します。
1.出願の根拠は5種類
出願の根拠は、次のように5種類あります。
- 「使用」に基づく出願 (1A)(Use in commerce basis)
- 「使用意思」に基づく出願(1B) (Intent-to-use basis)
- 「外国出願」に基づく出願(44D)(Foreign application basis)
- 「本国登録」に基づく出願(44E)(Foreign registration basis)
- 「マドプロ米国指定」(66A)(Section 66(a) filing basis)
以下に、各出願の根拠の概要をまとめました。出願の根拠は、各根拠の要件を満たしている限り、複数の組み合わせが可能です。但し、同一の商品・サービスについては「使用」と「使用意思」を同時に選択することはできません。また、「マドプロ米国指定」は他の根拠と組み合わせることはできません。
①「使用」に基づく出願(1A)
条 文 | 米国商標法第1条(a)項 |
内 容 | ・米国で商標を使用している者が登録を請求できる。 ・「登録の根拠」でもあり、この出願根拠の要件を満たせば、他の登録要件に問題がなければ、公告、登録へと進む。 |
要 件 | 商標を取引において使用していることの宣誓陳述、商標の最先使用日(米国に限らない)、米国での取引における商標の最先使用日、商標の使用見本 |
長 所 | 他の根拠と比べて、登録までに要する期間が短い。 |
短 所 | ・米国での取引で使用している商品・サービスに限定される。 ・使用見本が不適切と判断される場合もある。 |
基本的な流れ | 米国での使用⇒出願⇒審査⇒公告⇒登録 |
組合せの例 | ・①と②(既に使用している商品・サービスに加えて、使用予定の商品・サービスも指定したい場合に使われる。それぞれの出願根拠に対応する指定商品・サービスを分けて記載する必要あり。) ・①と③又は④(外国出願がある場合は優先権の効果が得られる。既に使用している商品に加えて、本国登録に係る商品が未使用の場合でも登録できる。) |
②「使用意思」に基づく出願(1B)
条 文 | 米国商標法第1条(b)項 |
内 容 | ・近い将来、米国で商標を使用する誠実な意思のある者が登録を請求できる。 ・「登録の根拠」ではないため、出願根拠の要件を満たしただけでは登録されない。使用(①)又は本国登録(④)など別の根拠の要件を満たす必要がある。 |
要 件 | 取引において使用する誠実な意思を有していることの宣誓陳述 |
長 所 | ・米国で未使用でも出願できる。出願日を確保できることでそれよりも後に出願された他人の類似商標の出願を排除できる。 ・登録された場合には、米国での出願日が全米で商標を使用開始した日とみなされる。 ・願書には使用予定の範囲の商品・サービスを記載できる。 |
短 所 | ・米国で使用が開始されるまでは登録されない。 ・米国で使用を開始すれば、出願手続き中に使用証拠を提出することで登録されるが、審査をパスし公告された後、許可通知書が発行されてから36ヶ月以内に使用証拠を提出できなければ出願は放棄される。 |
基本的な流れ | ・出願⇒使用宣誓書(AAU)⇒審査⇒公告⇒登録 ・出願⇒審査⇒公告⇒許可通知⇒使用宣誓書(SOU)⇒登録 |
組合せの例 | ・①と②(上述の通り。同一商品・サービスには適用できない。) ・②と③又は④(外国出願がある場合は優先権の効果が得られる。②を最終的に削除して④のみに依拠することで、本国登録に係る商品について使用証拠を提出することなく登録できる。) |
③「外国出願」に基づく出願(44D)
条 文 | 米国商標法第44(d)項 |
内 容 | ・外国で商標登録出願した者が、同一商標について外国での出願日から6ヶ月以内に米国で出願する場合に、優先権主張の効力を享受できる。 ・「登録の根拠」ではないため、出願根拠の要件を満たしただけでは登録されない。本国登録(④)又は使用(①)など、別の根拠の要件を満たす必要がある。 |
要 件 | 外国出願日から6ヶ月以内の優先権の主張、外国出願の国名・出願日・出願番号、基礎出願の範囲内の指定商品又はサービスのリスト、商標を取引において使用する誠実な意思を有していることの宣誓陳述 |
長 所 | ・米国で未使用でも出願できる。 ・外国での出願日が米国での有効出願日となり、それよりも後に出願された他人の類似商標の出願を排除できる。 |
短 所 | ・外国出願と同一の商標で、外国出願の指定商品・サービスの範囲内の商品・サービスしか米国出願の願書に記載できない。 ・この出願の根拠は「登録の根拠」とはならないため、公告許可される前に、①②④の根拠のいずれかを確立しなければならない。 |
基本的な流れ | ・出願⇒審査⇒使用宣誓書(AAU)⇒公告⇒登録 ・出願⇒審査⇒公告⇒許可通知⇒使用宣誓書(SOU)⇒登録 ・出願⇒審査⇒公告⇒登録 |
組合せの例 | ③と②(優先権主張の基礎出願が登録にならなかった場合など④への変更ができない事態に備えて、②を併用する) |
④「本国登録」に基づく出願(44E)
条 文 | 米国商標法第44(e)項 |
内 容 | ・出願人の本国で商標登録を取得した者は、同一商標について米国で登録することができる。 ・「登録の根拠」でもあり、この出願根拠の要件を満たせば、他の登録要件に問題がなければ、公告、登録へと進む。 |
要 件 | 本国登録証、本国登録証の英訳、本国登録の範囲内の指定商品又はサービスのリスト、商標を取引において使用する誠実な意思を有していることの宣誓陳述 |
長 所 | ・他の根拠と比べて、登録までに要する期間が短い。 ・米国で未使用でも出願でき、かつ、登録前に米国で使用されることは要求されない。 |
短 所 | ・本国登録と同一の商標で、本国登録の指定商品・サービスの範囲内の商品・サービスしか米国出願の願書に記載できない。 ・米国の出願が登録される時点で本国登録が存続している必要があるため、本国登録の存続期間が満了間近の場合には存続期間を更新し、更新したことの証明書を提出しなければならない。 |
基本的な流れ | 出願⇒審査⇒公告⇒登録 |
組合せの例 | ④と①又は②(審査において本国登録の要件を満たしていないと判断された場合、例えば、出願人の本国ではない、本国登録証の商標と出願商標の不一致、出願に係る指定商品・サービスが本国登録の範囲を超えているなど、に備えて、①又は②を併用する) |
⑤「マドプロ米国指定」(66A)
条 文 | 米国商標法第66条(a)項 |
内 容 | マドプロ出願で適法に米国が指定された場合に、米国に国際登録による保護の拡張を求める請求がなされたものとみなす。 |
要 件 | 米国を指定するマドプロ出願の願書に、商標を取引において使用する誠実な意思を有していることの宣誓書 |
長 所 | ・米国で未使用でも出願でき、かつ、登録前に米国で使用されることは要求されない。 ・日本企業が出願する場合に、米国代理人を選任する必要がない(暫定拒絶通報に対応する場合を除く)。 |
短 所 | ・マドプロ出願に基づく国際登録が取り消された後に米国国内出願への転換出願をする場合を除き、他の出願の根拠への変更や、他の出願の根拠との組み合わせは認められない。 ・識別力欠如の拒絶理由を受けた場合でも、補助登録簿への出願に変更することはできない。 ・マドプロ出願による米国指定が登録された場合、国際登録の更新手続きはWIPOに対して行うが、米国での使用等に関する宣誓書の提出はUSPTOに対して行う必要があり、その期限管理(米国での登録日が起算日となる)が必要。 |
基本的な流れ | 国際登録⇒米国への指定通報⇒審査⇒公告⇒登録 |
組合せの例 | 他の出願の根拠との組み合わせは不可。 |
2.出願根拠の選択について知っておきたいポイント
(1)全般的なこと
- 最終的に登録される段階での根拠は、「使用」、「本国登録」、「マドプロ米国指定」の3つです。
- 「本国登録」、「マドプロ米国指定」では、使用証拠を提出することなく登録されます。手続き的には負担が少ないため、一見メリットのように見えます。しかし、次のように、メリットばかりでもありません。
- 使用を証明せずに登録になったため、商標に関する係争の当事者となった場合には、権利の有効性の立証(例えば、商標が継続して使用されていて放棄となっていないことの証明など)が必要となる場合があります。
- 登録日から3年未満であっても、商品・サービスの数が極端に多い場合には、それぞれの商品・サービスについての誠実な使用意思を欠くとして登録取消請求の対象となる可能性があります。
(2)使用に基づく出願・使用意思に基づく出願について
- 「使用に基づく出願」では、商標の使用見本が不適切として拒絶されるケースが少なくありません。代わりの使用見本を提出するか、あるいは、元の出願日を維持したままで「使用に基づく出願」から「使用意思に基づく出願」へ出願根拠を補正するなどの対応が必要になります。後者の場合は宣誓書において、商標を取引において使用する誠実な意思があることに加え、元の出願日の時点で商標を取引において使用する誠実な意思があったことを表明する必要があります。
- 「使用意思に基づく出願」では、指定商品・サービスの記載は、誠実な使用意思(bona fide intention to use)が求められるため、本当に使用を予定しているものを記載すべきです(係争に備えて、使用を予定していたことを後日証明できるような書類を保存しておくことが必要です)。商品・サービスの数が極端に多い場合には、それぞれの商品・サービスについての誠実な使用意思を欠くとして、登録取消請求の対象となる可能性があります。
- 「使用意思に基づく出願」では、許可通知書の発行日から36ヶ月以内に使用証拠を提出することができますが、6ヶ月ごとに期間を延長する必要があり、その延長費用は区分ごとにかかり、使用証拠を提出するのにも区分ごとに費用がかかります。
(3)外国出願・本国登録に基づく出願について
- 「外国出願に基づく出願」は、優先権主張の基礎となる出願(基礎出願)の出願日から6ヶ月以内であれば追加可能なので、米国出願時に優先権主張を忘れた場合でも、基礎出願の出願日から6ヶ月以内であれば追加できます。
- 「本国登録に基づく出願」の場合、出願人の本国であること、米国出願に係る商標が本国登録証に記載されたものと同一であること、米国出願の指定商品・サービスが本国登録証に記載されたものの範囲内であることが厳しく審査されます。本国登録証に記載された商品・役務が包括的な表示の場合には、米国出願の指定商品・サービスがその包括表示に含まれることの証明として、本国登録証明書を特許庁に請求する際に、商標登録の範囲に含まれる商品及び役務の証明(包含証明)を併せて請求することができます。
以上、米国商標出願で必ず選択しなければならない出願の根拠(出願ベース)の概要を解説しました。米国国内での出願商標の使用の有無、対応する日本出願・登録の有無、登録の可能性、米国でのビジネスの展開予定など、様々な点を考慮して適切な出願ベースを選択してください。当事務所では、外国商標に関する様々なお困り事に対するサポートを行っています。どの出願ベースを選択すればよいかわからない、現地代理人からの問い合わせ内容がよく理解できないない、身近に米国商標に詳しい人がいない、など米国商標についてお困り事がありましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。ご相談はこちらのお問い合わせフォームから、お待ちしております。