最終更新日 2024-05-21
米国での商標調査は、使用主義という制度をとっていることから特別な注意が必要です。特徴的なのは、未登録でも現実に使用されている商標の調査が不可欠ということです。
とてつもなく広大な米国のどこかで現実に使用されている商標を調査することは困難極まりないという気がします。しかし、米国では、インターネット検索、ドメインネーム検索、会社名などの名簿、電話帳、新聞・雑誌記事、その他の様々な記録を検索するデータベースを活用した商標調査専門サービスが非常に発達しています。
この記事の内容は、
です。この記事を読めば、現地の商標調査会社や商標事務所に的確かつ費用対効果的な商標調査の指示を出すためにどんな準備が必要であるかがわかります。
1.米国商標調査を依頼するにあたり知っておくべきこと
(1)米国特許商標庁(USPTO)の商標調査データベース(TESS)を使った出願中や登録済みの商標の調査だけでは不十分
米国では、商標権は登録によって発生するのではなく、取引における現実の使用によって発生します。商標登録されていなくても、米国内のある地域で商標が使用されていれば、同一地域内及びその周辺地域では、後から紛らわしい商標を使用した者に対して使用の中止を求めることができます。このような登録はされていなくても取引において現実に使用されている商標が有する権利をコモンロー上の商標権といいます。
TESSには、USPTOに出願された商標(連邦商標登録出願)や登録された商標(連邦商標登録)が収録されています。しかし、州登録商標(米国の各州の商標登録簿に登録される商標)やコモンロー上の商標権(現実に使用されている商標)のデータは収録されていません。したがって、TESSを利用した商標調査で問題となりそうな先行商標が発見されなかったとしても、現実に使用されている商標が存在していた場合には、少なくともその商標が使用されている地域及びその周辺においては、予定していた商標を使用できくなる可能性があります。(2024年5月現在、TESSは新しい調査システムに置き換わっています。新商標調査システムについての紹介記事は「新しい米国商標調査システムの使い方その1(ドロップダウンサーチ)」などをご覧ください。)
このため、米国における商標の使用・登録可能性に関する調査では、①USPTOに出願・登録された商標、②州登録商標、③コモンロー上の商標権の3種類の商標を網羅するフルサーチ(full availability search)が基本的に必要となります。州登録商標については各州政府の登録簿を調査し、コモンロー上の商標権については、インターネットの検索エンジン、ドメイン名、会社名称登録簿、関連業界の各種ディレクトリなどを調査します。
(2)フルサーチの対象となるのは英文字の文字商標のみ
調査対象商標が英文字の文字商標であれば、フルサーチの対象となります。英文字以外の商標や図形の商標はフルサーチの対象外です。フルサーチではなくUSPTOに出願・登録されている商標を対象とする場合は、英文字以外の文字商標でも調査可能です。英文字以外の文字商標の場合は英語への翻訳と音訳を使って、図形商標であれば図形コードを使って調査できます。
(3)商標調査結果の報告書の取扱いについて
米国は訴訟社会といわれ、商標権の侵害訴訟や商標出願に対する異議申立などの係争は頻繁に発生しています。米国の訴訟ではディスカバリーと呼ばれる証拠開示手続きがあり、商標調査に関連する書類も開示の対象となる場合があります。
通常、商標調査結果についての弁護士の見解は秘密特権で守られますが、調査会社が行った商標調査結果のリストは開示の対象となります。調査結果のリストに明らかに問題となるような商標が含まれていた場合には、それに気づいていながら(故意に)商標を採択し使用を開始したと判断される可能性も否定できません。
したがって、商標調査の報告書に記載された弁護士の見解を尊重し、アドバイスに従うことが大切です。
2.一般的な米国商標調査報告書の内容
自分が使用したい商標が米国で使用・登録可能であるかを調査する場合には、一般的にフルサーチを商標調査会社や商標事務所などの専門家に頼することになります。
これにはUSPTOのTESSに収録された出願・登録商標の調査に加えて、州登録商標のデータベースサーチ、コモンロー上の商標権の調査がパッケージで提供され、通常、米国弁護士の分析(analysis)と見解(opinion)がセットになっています。
調査結果は、通常、弁護士による見解が示されたレターと、調査結果のリストと関連資料がまとめられた分厚い報告書(電子データで提供される場合が多い)が提供されます。
専門家による見解では、調査結果を分析した上で、調査対象の商標が米国において登録し保護され得る商標であるか、例えば、記述的商標ではないか、識別力はあるか、その他不登録事由に該当する商標ではないか、といった論点に関する見解と、先行商標との間で混同のおそれがあるかどうか、先行商標との併存が可能であるかどうかなどを考慮し、米国において使用及び登録が可能かどうかについての見解が示されます
3.費用対効果的な米国商標調査の依頼方法
最後に、米国での商標調査を依頼する際のポイントについて紹介します。
調査担当者に商標調査をオーダーする時に伝えるべき情報は次のとおりです。
- 調査したい商標
- 商標の由来や意味と造語の場合の読み方、外国語の場合は英語への翻訳と音訳
- 商標を使用する予定の商品又はサービスのリスト(将来展開予定のものも含む)
- 調査の目的(「使用及び登録可能性の調査」、「商標の所有者の調査」など)
- 調査の種類(「フルサーチ」、「予備的調査(同一又は極めて紛らわしい商標のみを対象とする簡易商標調査)など)
- 必要な見解・コメントの内容(「識別力の有無に関するコメントと使用・登録の可能性に関するコメント」など)
- 希望納期(納期によって費用が変わる場合があります)
- 予算の上限
その他、必要に応じて、商標の実際の使用イメージがわかる画像、商標を使用する事業の内容と商品・サービスの提供方法、想定する顧客層などの情報を提供すると、担当弁護士が見解を形成する際に役立ちます。
フルサーチの場合は、費用が高額となる場合が多いため、事前に調査内容を伝え、費用見積り、納期、調査方法の確認、調査方法に関する提案があればもらっておく、などの事前準備をすべきです。調査したい商標が複数の語句や要素から成る場合、1件分の商標調査ではカバーできない場合があるので、費用の見積りは必ず確認しておくべきです。
費用を抑えるため、まずは予備的調査(preliminary search)を行い、調査の範囲を限定した上で明らかに障害となる商標を発見した場合はそこで調査を切り上げ報告してもらい、明らかな障害がなければ、続けてフルサーチに進むという段階的な調査をリクエストすることも一つの方法です。