ベトナムではじめて商標登録をする方に知っておいて欲しい5つのポイント

最終更新日 2023-06-21

「ベトナムに進出しようという計画が現実味を帯びてきた」、「ベトナムでも自社の商標が使えるようにしておきたい」、「ベトナムの商標制度はどうなってるのだろう」………。

ベトナムでの商標登録について真剣に考え始めた方に、はじめに知っておいていただきたいポイントを5つ取り上げて紹介します。

  1. 日本語の文字だけの商標は要注意
  2. ベトナムの商標制度の概要
  3. ベトナムでの商標登録出願手続きの流れと所要期間
  4. ベトナムを指定するマドプロ出願にみる最近の暫定拒絶通報の内容の例
  5. ベトナムの商標制度に関する印象

1.日本語の文字だけの商標は要注意

ベトナムでの商標出願といえば、まず注意することは、日本語文字(漢字、カタカナ、ひらがな)だけからなる商標を出願すると、ほぼ確実に拒絶理由通知が発せられることです。

ベトナム語やアルファベット以外の文字はベトナムでは馴染みが薄いため、一般的なベトナム消費者はそれらを理解できず、商品やサービスの識別標識として機能しない、ということがその理由です。

日本語の文字以外に、特徴的な図形マークや、英文字表記がある程度目立つように配置されている場合は、商標全体として識別標識となり得るため、登録される場合があります。また該当するケースは少ないと思いますが、ベトナム国内で大々的に使用された結果、一般的ベトナム消費者なら問題なく理解できるようになっている日本語文字であれば、その日本語文字だけの商標でも登録が認められる可能性があります。

日本の商品であることをアピールするために日本語文字を商品ラベルに使用したいと思われることが多いと思います。その場合には、特徴的な図形マークや英文字表記を併記した商標で出願して商標登録を取得し、実際の使用でも、登録された商標をそのまま使用するようにしましょう。

2.ベトナムの商標制度の概要

  • パリ条約、マドプロの加盟国です。ニース協定の加盟国ではありませんが、ニース国際分類を採用しています。
  • 先願主義、審査主義を採用しています。登録前に異議申立期間があります。商標登録の存続期間満了日は出願日から10年です。更新可能です。
  • 不使用による取消しは、5年間継続して不使用の場合に不使用取消請求の対象となります。
  • WIPOのIP statistical profileによれば、ベトナムの2021年の受理官庁としての年間商標出願件数は区分数換算で113,079件、世界ランクは第20位です(日本は10位)。
  • 商標調査ができるデータベースは次のとおり。
    1. http://wipopublish.ipvietnam.gov.vn/wopublish-search/public/trademarks?2&lang=en&query=*:*
    2. https://ipplatform.gov.vn/database/nhan-hieu/tra-cuu-nang-cao

3.ベトナムでの商標登録出願手続きの流れと所要期間

(1)ベトナムでの商標出願手続きの大まかな流れ

  1. 出願
  2. 方式審査(不備があれば審査通知日から2か月以内に応答)
  3. 出願公告(公告日から5か月以内に異議申立てが可能。第三者による意見書提出は登録付与決定の発行日前まで可能。)
  4. 実体審査(拒絶理由通知の日から3か月以内に応答。拒絶理由が解消されない場合は、拒絶査定となり、通知受領後90日以内に不服申立てが可能)
  5. 登録料納付
  6. 登録・登録の公告
  7. (登録無効・取消請求、不使用取消請求などの可能性あり)
  8. 更新

(2)出願から登録までの所要期間

16か月から20か月程度かかるようです。異議申立てがなされた場合や、拒絶理由通知が解消せず不服申立てを行った場合は、更に期間を要します。

4.ベトナムを指定するマドプロ出願にみる最近の暫定拒絶通報の内容の例

最近のベトナムを指定するマドプロ出願で出された暫定拒絶通報にみる拒絶の理由を、誰でも閲覧可能なWIPOのMadrid Monitorを使ってピックアップしました。国際登録日が2022年1月18日から2022年3月30日までの30件のマドプロ出願ベトナム指定分を調べました。

  • 先に出願された商標と紛らわしく類似する 23件
  • 日本語のみからなる商標であり識別力を欠く   2件
  • 指定商品の表示が不明確である 2件
  • 商品の生産地を示す文字を商標の構成に含む  1件
  • 商品の用途等を単に記述しているため識別力を欠く  1件
  • 識別力を欠く(会社名称の英語表記)  1件
  • 指定商品・役務の表示が重複している 1件

検索結果として表示された30件の中で、既存の商標に類似するという拒絶理由が76パーセントを占めています。このような拒絶理由に対しては、非類似の主張、同意書の取得、不使用取消請求などの対応が考えられます。

日本語文字のみからなる商標については、ほぼ確実に拒絶理由が出されるようです。また、ベトナムの審査官は英語の理解度が高いようで、出願商標を構成する英文字について、英語の意味に基づいて、指定商品・サービスとの関係から識別力欠如の拒絶理由を通知してきます。

方式面では、日本の特許庁の指定商品の英訳を使用したものについて、指定商品の表示が不明確とする拒絶理由が出されています。

5.ベトナムの商標制度に関する印象

ベトナムの商標制度はやや難解な気がします。法規の改正や運用の細かな変更などが比較的に頻繁に行われ、その情報がタイムリーに英語や日本語の媒体を通して伝わってこない印象があります。また不服申立ての手続きなどには非常に時間がかかるようです。そういった点からも、ベトナムにおける代理人の選定は重要になります。

ベトナムでは、事前準備をしておけば避けられたかもしれない拒絶理由通知が出されてしまう傾向があるように思えます。費用はかかってしまいますが、現地の代理人を通じて、出願前(マドプロ出願も含む)の商標調査を念入りに行うことや、出願商標が適切かどうか、また指定商品・サービスの表示は適切かどうかなどについてコメントを得ておくことも、早期登録のためには大切です。